14歳の時に実父に姦淫されて夫婦同然の生活を強いられ、25歳までに実父との間に5人の子を出産した女性が、ある男性と出会って結婚を決意し、それを知った実父が女性を監禁して姦淫を続けるなどしたため、女性が絶望感の中、実父を殺害したという事件です。
このような事案で、女性に厳罰を科すことは明らかに不当です。法律上の酌量減刑を最大限適用すれば、懲役3年6カ月まで減刑できるのですが、それでも執行猶予はつけられません。尊属殺人の規定を適用すれば、女性は刑務所で服役しなければならなかったのです。この事例で、尊属殺人の規定は憲法違反と判断され、その後、刑法から削除されました。
弁護士が見た「最も印象に残ったシーン」
尊属殺人罪はなくなりましたが、私自身が現在、殺人について問題に感じているのは、「親による子殺し」の刑がとても軽いことです。どのような理由があっても殺人は許されるべきではありませんが、その中でも、無抵抗で自分を守る術をまったく知らない子どもが殺されてしまうことは、他の殺人よりも重く処罰されるべきです。
このような事件は後を絶たず、「殺意はなかった」という理由で、より軽い傷害致死罪で処罰されるケースも多くみられます。子どもは、軽い暴行でも亡くなってしまいます。一般的な大人であれば、「子どもは軽い暴力でも死んでしまうかもしれない」ということはわかるはずです。それが、「暴行が軽かった」などという理由で、殺意がなかったということになり、傷害致死罪にしかならないのです。
尊属殺人罪とは逆の、「子どもを死なせる罪」という重い類型が刑法に定められてもいいのではないかと思います。
話を『虎に翼』に戻して、弁護士として最も印象に残ったシーンを紹介します。寅子の学生時代の勉強仲間である梅子さんは、夫が亡くなった後、長男から相続放棄を迫られました。旧民法では、妻に相続分はなく、すべて長男が相続することになっていたのですが、戦後の改正民法では、配偶者の相続分が認められていました。