未曾有の経営危機に直面している農林中央金庫。2025年3月期における赤字額は、当初5000億円程度と考えられていたが、最終的にはそれを大幅に上回ることが予測されるという。このような苦境に陥ったのは何が原因か。
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「“げろ吐き”は1回で、すべて出し尽くすことが成功の鍵だ」
金融機関が不良債権を処理する際の鉄則である。
損失を集中的に処理(げろ吐き)することで、一時的に巨額の赤字を抱えることになる。だが、一気に膿を出し切って抜本的な立て直しを図ることで、後のⅤ字回復も可能となり得る――それを表した言葉である。
総資産は約100兆円、市場運用資産残高は約56兆円。農業、林業、漁業などの協同組合を統べる中央金融機関として、系統金融機関のピラミッドの頂点に立つ農林中央金庫(奥和登理事長、東大農学部卒、1983年入庫)がいま、巨額の不良債権処理の問題に直面している。
リーマン・ショック以来の赤字に
「(JAなどの)会員の期待をはるかに下回ったことに、非常に責任を感じている」
5月22日、奥氏は2024年3月期決算の記者会見でこう述べた。
この日、農林中金は翌2025年3月期の連結純損益が5000億円超の赤字に転落する見込みだと発表した。多額の含み損を抱えている保有債券を売却して、損失を計上。財務基盤を強化するため、1兆2000億円規模の資本増強も行う方針だと明らかにした。
「実際に見込み通りの赤字になれば、リーマン・ショックの影響を受けて5721億円の赤字となった、2009年3月期以来の数字となります。当時、有価証券の運用で損失が拡大し、1兆9000億円の増資を実施しました」(経済部記者)
2024年3月期決算は、純利益が前年比24.8%増の636億円だった。だが欧米など海外金利の上昇で、外貨調達コストが増大。さらに低金利の頃に購入した債券の価値が下がり、3月末時点で含み損が2兆1923億円にものぼった。
「債券は売らずに満期まで持ち続ければ損失は発生しません。しかし、そのまま持っていると、収益性が悪化する恐れがあります。そのため今年度中に一部を売却し、金利の高い米国債などに振り向ける予定です」(同前)
5月24日、坂本哲志農林水産相は閣議後の記者会見で、「財務の健全性は確保されている。金融市場の動向等を踏まえつつ、農林中金の経営を十分注視する」と述べ、懸念を払拭しようと努めた。
最終赤字予想が1兆5000億円に拡大
だが、赤字は5000億円にとどまらなかった。6月19日、奥氏が『日本経済新聞』のインタビューで次のように明かしたのだ。
〈農中、外債10兆円売却へ 損失確定 運用戦略を転換 赤字1.5兆円に 今期最終〉
こう題した朝刊一面トップの記事で奥氏は、3月末時点で約2兆2000億円の債券含み損の状況を改善するために「運用を抜本的に変える必要があると判断した」「(外債関連の)金利リスクを小さくし、法人や個人の信用リスクを取る資産などに分散させる」と説明。「10兆円かそれを上回る規模の低利回り(外国)債券を売っていく」と明かした。大量の外債を売って、含み損を実際の損失として確定させることにより、2025年3月期の収支はさらに悪化する。