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 この損失処理に伴い、5000億円超と見込んでいた最終赤字額は3倍の1兆5000億円規模に拡大する可能性がある。リーマン・ショック当時の赤字とは比べ物にならないほどの巨額赤字となる。

リーマン・ショックで理事長は上野博史氏(左)から河野良雄氏に交代した ©時事通信社

「一連の損失処理は、運用の世界で『リバランス』と呼ばれるポートフォリオの入れ替えに近い方法です。農林中金の場合、米欧の金利上昇に伴い価格が大きく低下した債券を売却し、利率の高い債券に乗り換えることになります」(市場関係者)

 農林中金が描いているシナリオはこうだ。

 まず、2025年3月までに損失を集中的に処理することで、一時的に巨額赤字となり、自己資本比率も低下する。そこでJAなど系統組織から資本増強を仰ぎ、危機を回避する。そして2026年3月期には一挙にV字回復し、黒字に転じる――。

農林中金を襲った2つの“想定外”

 そもそも、農林中金が予想を上回る苦境に陥ったのは、何が原因だったのか。

 農林中金は、JAや各都道府県の信連から託された潤沢な円資金を国内外の有価証券等にグローバル投資している。その運用規模は約56兆3000億円(2024年3月末)にものぼる。「円で日本国債を買って、それを担保にドルを調達し、米国債等に投資する」(農林中金関係者)というのが基本投資フローだ。

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会見に出席した奥理事長(左)と常務執行役員・北林太郎氏 ©時事通信社

 その内訳はドル建てが52%で、円建ては24%に過ぎない。ユーロ建ては16%、その他9%と、全体の約8割が、海外運用で占められている。

「日本のマイナス金利環境の影響もあり、利回りの高い海外運用で利益確保を目指していた」(同前)

 そこに米国の矢継ぎ早な利上げによる投資有価証券の価格急落と、ドル高による調達コスト増が襲った。

 市場の混乱は農林中金の予想を超えた。奥氏は5月の会見で「想定を超えるような金利の引き上げだった」と、米金利の上昇に対して後手に回ったことを認めている。

 想定外だったのは米金利だけではない。

「農林中金が10兆円の外債売却を決めた背景には、フランス国債の急落も影響しているのではないかと言われています」(前出・市場関係者)

 6月9日の欧州議会選挙で、フランスの与党連合は極右政党「国民連合」に大差で敗れた。これを受けてマクロン大統領は下院を解散。7月下旬のパリ五輪開幕を前に、突如総選挙が実施されることになった。

 マクロン大統領の決定は、フランスの金融市場を動揺させ、銀行株が大幅に売られた。銀行が大量に保有する国債の価格下落が、銀行の財務を悪化させるとの見方が強まったためだ。影響は日本にも飛び火し、6月17日に日本株が大幅に下落した要因の一つになった。

 ユーロが安くなるという構図は、リーマン・ショック後の欧州債務危機を彷彿させる。

「米国債に続き欧州債まで価格が急落することになれば、農林中金の危機は本格化する。リスク要因はできる限り取り除いておく必要がある。そこでさらなる外債売却に動いたのでしょう」(同前)

本記事の全文は「文藝春秋 電子版」に掲載されています(「〈崖っぷちの農林中金〉1兆5000億円巨額赤字でもトップ続投。次期理事長は一人に絞られた」)。

 

全文では、今回の巨額損失と奥理事長の続投によって、“ポスト奥”争いはどのような影響を受けるのか、次期理事長の有力候補について、詳細に解説しています。