今の将棋ブームの立役者は何と言っても藤井聡太六段だが、それだけではない。名作ノンフィクションと人気コミックが原作の、若き天才棋士を主人公にした二本の映画が一昨年暮れから昨年春にかけて立て続けに公開された。それが藤井六段の躍進のタイミングと重なったことが、ブームを大きく後押ししたのだ。
『聖(さとし)の青春』と『3月のライオン』である。
実はこの原作二作にはささやかなつながりがある。羽海野(うみの)チカの大ヒット漫画『3月のライオン』(白泉社)はフィクションだが、コミックス一巻に収録されている先崎学九段の解説によれば、主人公・桐山零の親友、二海堂晴信だけは「よく似ている」棋士がいるという。それが二十九歳の若さでこの世を去った『聖の青春』の主人公、故村山聖九段なのだ。
病と闘っているという設定も、愛嬌たっぷりのキャラも、漫画で描かれるその体型も、村山九段に「そっくりです」と先崎は書いている。二海堂と桐山の対局場面は村山九段と谷川浩司九段の王将戦の棋譜を題材にしたそうだ。