ミステリ、SFとも相性が良い
将棋はミステリとも相性が良く、昭和を代表する将棋ミステリの書き手に、自らもアマ四段だった山村正夫と、東大将棋部で名を馳せた斎藤栄がいる。このふたりの作品を含む往年の将棋ミステリ名作アンソロジーが『将棋推理 迷宮の対局』(山前譲編 光文社文庫)だ。他にも高木彬光や横溝正史など錚々たる顔ぶれが並ぶ。内容も賭け将棋あり詰将棋あり、アマありプロあり、将棋を使ったアリバイ工作ありと実にバラエティ豊か。ほとんどが昭和の作品なので情報は古いが、それが逆にあの時代の匂いを感じさせてくれる。
最後に変わり種として貴志祐介『ダークゾーン』(角川文庫)を挙げておこう。奨励会三段リーグに在籍しプロ棋士を目指す塚田は、目をさますと自分が特撮ヒーローのような姿をした人間将棋の駒〈赤の王将〉になっていることに気づく。同じチームにはそれぞれ役割を持った仲間が十七人。しかも火を吹いたり空を飛んだりという特殊能力を持っている。わけもわからず敵チームとの戦いが始まったが……。
つまりは異空間バトル小説なのだが、このバトルが将棋を模した緻密な頭脳ゲームであることと、この世界が現実とどうかかわるのかという謎解きの興味が重なって興奮間違いなし。
人間の業をえぐる壮絶な真剣師ものから異世界SFまで、将棋のルールを知らなくても楽しめるものばかりだ。むしろ将棋をやってみたいと思わせてくれる。ここに紹介したのはほんの一握り。他にも宮内悠介や葉真中顕など、ニューウェーブも登場している。あなたは読んでから指すか、それとも指してから読むか?
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おおやひろこ/1964年、大分県生まれ。書評家。著書に『歴史・時代小説 縦横無尽の読みくらべガイド』(文春文庫)『読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100』(日経文芸文庫)など。名古屋在住の中日ドラゴンズファン。