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石原 もちろん、大きな謝礼を手にできるチャンスであることは確かです。ですが、きれいごとを言うつもりはないのですが、まず大前提として、代理母になるには人を助けたいという気持が根底にないと難しいと思います。

 自分の子どもを育てながら、着床しやすくするためのホルモン剤を打ち、自分の都合は後回しにして、つわりがひどくても、医師とのアポイントメントを守り、体調を整え、妊娠、出産という大仕事を全うしていく。

 妊娠しなければ、謝礼も一切受け取ることはできません。「依頼者に素敵なギフトを贈りたい」という気持ちがなければできることではないと思いますし、逆にいえばそれこそが代理母になる一番の動機だと感じています。

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「運命共同体」だと感じた瞬間

――つまり、経済的にも、心理的にも両者は対等ということでしょうか。

石原 はい。ただ悲しいことに、なかには依頼者側が代理母に一方的に、「お金払うから産んでよ」という態度を取ってしまい、代理母をまったく気遣わないケースも現実として起きているのでしょう。それが、代理母出産が「富裕層が貧困層を利用している」とイメージされる要因の一つになっているのではないかと。

 実は、かつて私が関わったケースでもいらっしゃったんです。生まれるまで一通も代理母に労いのメッセージのメールを送らず、出産日になって突然現れてきた依頼者が。無事に生まれて結果的にハッピーではあったんですが、代理母のほうが「会いたかったー!」と号泣してしまって。

 そんな様子を見て、私もとても複雑な気持ちになりました。代理母は、お腹の中にいる赤ちゃんの誕生を楽しみに待っている依頼者を想像することができてはじめて、代理母になることのやりがいを感じるわけで、依頼者との接点がないのはとても残念に思います。

 私はもちろん、他の多くのエージェントも、とにかく依頼者と代理母とのコミュニケーションは非常に大事にしています。普段は、依頼者から代理母へのメールや対話を積極的に促すようにしています。「つわりはどう?」、「困っていることはない?」、「私達は毎日こんな風に過ごしているよ」など、どんな些細なことでも、たとえ英語が話せなくても、日本語で書いてくれたら、私が代理母に訳して必ず伝えますからと。

 日本の方って、あまりやりすぎるとかえって迷惑なのではないかと考えがちなんですが、代理母にとってみたら、気持ちを表現して伝えてくれるほうが嬉しいし、特に日本に住む依頼者の事が想像できることは、安心につながるんです。アメリカ人はコミュニケーションをとても大事にしますし、そうやってお互いに対話しながら妊娠週数を重ねるうちに、両者の信頼関係が出来上がっていくんです。

 これは象徴的なエピソードなんですが、ある代理母が妊娠判定で陽性と出た時にメールをくれたことがあります。その文面には、「I’m pregnant」ではなく、「We are pregnant」って書いてあったのですが、依頼者夫婦、代理母、そしてコーディネーターの私を含めた三者の運命共同体による共同作業という想いが込められているようで、本当に嬉しかった。そんな関係性において、上とか下とか、強いとか弱いという概念は生まれようがないと思っています。