※こちらは公募企画「文春野球フレッシュオールスター2024」に届いた原稿のなかから出場権を獲得したコラムです。おもしろいと思ったら文末のHITボタンを押してください。

【出場者プロフィール】とく 読売巨人軍

菊地大稀・Negicco・アルビにわかファンの新潟大好きアラサー会社員。高松商出身の親族の影響で、高校時代より浅野を一家で熱烈応援。その親族が熱狂的阪神ファンとあり、ドラフト当日は悲喜交々だった。

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 新年度、メーカーの広報部門である私の部署では、皆が競合他社対策に日夜頭を悩ませていた。勢いのあるライバル企業に対し、いかに遅れを取らずに魅力的なアピールをしていくか。考えていると、気づけばプロ野球のナイターが始まる時間になっている。

 我が家では最近、ジャイアンツの吉川尚輝がアツい。パ・某球団ファンの妻が、交流戦で吉川のサヨナラヒットを見てすっかりファンになって以来、空前絶後の吉川ブームが訪れている。

 いっそ吉川がうちの広告塔になってくれたら……あまりにも脈絡が無さすぎるか。そんなことを考えていると、ふと、昨年友人と野球観戦をした際の記憶が蘇った。

 試合は僅差の終盤、ある選手が試合を決める満塁ホームランを放った。

「俺の会社の看板!!!」

 打球は友人の勤務先企業が掲出している外野フェンスの広告をちょうど超えるホームランだった。そのシーンは当日・翌日のスポーツニュースで何度も取り上げられた。まるで友人の勤務先をアピールしているかのようなホームランだった。

 ……そういえば、打球が飛ぶことで最も恩恵を受けている外野フェンス広告はどれなのだろうか。そして、最も外野フェンスの広告が映るような打球を放っている、いわば「スポンサーフレンドリー」なバッターは誰なのだろうか。

 もしもそれが吉川ならば……「吉川選手はスポンサー企業に対して誠実な結果を残す選手なのか、よしダメ元で我が社の広告塔にオファーしてみようじゃないか」、架空の上司の声が聞こえる。本当に吉川が広告塔になるかもしれない。ワクワクが止まらなくなり、早速家に帰って調べてみることにした。

吉川尚輝 ©時事通信社

吉川はフェンスの広告に打球を飛ばしているか

 今回は、東京ドームの外野フェンスの広告(試合によって変化するリボン広告は除く)を対象に以下の通りに検証を行った。

【検証方法】

・今シーズン、本拠地・東京ドームにおいて、ジャイアンツの各打者が外野に飛ばした打球・外野へ抜けていった打球を対象として調査を行う(内野の打球やファールでも見られることがあるが、外野フェンス広告が画面のメインにはならないため、対象外とする)

・検証にあたっては、有料配信サービス・GIANTS TVに加入し、執筆している交流戦終了時(6月20日現在)までに東京ドームで開催された一軍公式戦全28試合を見て、各打球を確認した。

 映像を止めては打球を確認し再生する、これを打者ごとに繰り返す。今までにしたことがない作業を経て、以下の結果を得た。

【検証した28試合で、外野へ飛んだ打球によりフェンス広告が映った秒数の合計】
1位 セノン(バックスクリーン下・ややレフト寄り)  372秒
2位 Canon(バックスクリーン下・ややライト寄り)  349秒
3位 フコク生命(レフト側・セノンの左隣)      345秒
4位 竹中工務店(レフト側・フコク生命の左隣)    342秒
5位 アートネイチャー(レフト側・竹中工務店の左隣) 337秒

 センター返しが徹底されている証か、外野フェンス広告全14社のうち、最も映るのはバックスクリーン下の2つの看板だった。また、3~5位になるにつれ、どんどんレフト側へ向かっている。これは今季、右打者の方が外野まで安定して引っ張り方向に強い打球を打てていることを意味しているかもしれない。岡本・坂本に売り出し中の萩尾に途中加入のヘルナンデスも大きく貢献している様子がうかがえる。

 そして、今回の肝である、「外野フェンス直撃・フェンスオーバー・バウンドした結果フェンスに到達した打球」(以下「フェンス付近打球」)の数は次の通りであった。これが多ければ多いほど、スポンサー企業を打球で宣伝している選手と言えるのではないか。

【「フェンス付近打球」上位3傑】
1位 岡本和真 9回
2位 吉川尚輝 5回
3位 坂本勇人 4回

「フェンス付近打球」の数は主砲・岡本に軍配が上がった。絶好球を逃さずフルスイングで引っ張る姿勢で、フェンスオーバー・レフト側フェンス直撃となる打球が多く、吉川も右へ左へ二塁打や惜しいフライをたくさん打っていたが、あと一歩及ばなかった。

『吉川尚輝のフェンス付近打球数はチーム2位と目を見張るものがあり、スポンサーフレンドリーな選手と言えるので、広告塔に起用すべきである』

「じゃあ岡本選手の起用を提案したらいいじゃないか」という架空の上司の声が聞こえる。岡本も堂々たる成績以上にあの独特なキャラクターが大好きな選手であり、広告塔になってくれたらそれ以上に嬉しいことはない。しかし、今回のアイデアは吉川が浮かばせてくれたアイデアである。ここで引き下がるわけにはいかない。