「裁判中に(逮捕された鈴木泰徳の)弁護士が、本人が書いた手紙を渡そうとしてきたんですよ。やけ、その弁護士にやっかまし(厳しく)言うたんですよ。『お前ええかげんにせえよ。どんな心境かわかるか』って話をして、『手紙は一切受け取らん』って言ったんです。とんでもない弁護士やと思ってね。ま、犯人もそうやけどね……」

 弁護士にとってはそれが仕事だったのだろうが、遺族感情への配慮があったとは言い難い。さらに裁判の傍聴に加え、渡された公判記録を読むことも苦痛だったと明かす。

「たしかに、あのときは裁判中でずーっと(公判記録を)見とったけど、たまらんやったね。やから、思い出したくない。もう見ろうごとない(見ようと思わない)ですね」

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 私は「時間が解決するということはないんですね」と口にした。敏廣さんは頷く。

「よく言葉ではあったけど、時間では解決せんですよ。で、忘れたことがないって、世間一般は言うし、聞くやないですか。ほんとそうなんですよ……」

「死刑執行にぜんぜん興味なかった」

 鈴木の死刑は19年に執行されたが、そのことも心境の変化には影響しなかったようだ。

「ぜんぜんもう……ぜんぜん、興味なかった。一報くれたのはNHKやったんです。記者から電話がきて、『今日、死刑が執行されました』って。あと何社かから電話があったんやけど、お断りしてコメントは避けました。もうほんと、ぜんっぜん、興味ない」

啓子さんの祭壇と敏廣さん(筆者提供)

 敏廣さんは最後に「ぜんっぜん」と口にするとき、声量を上げて強調する。

「終わったことで済まされるわけではないっち、自分のなかで思うとるんよ。ただ、興味はないけど、鈴木自体の名前を聞くのも好かんし、漢字を見ること自体も好かんし……。あと、悔しいのはね、拘置所で、税金でメシ食いよったっちゅうのがね、あれが悔しいんですよ。年間にどれだけの経費を使うかはわからんけど、あれに税金を使うこと自体がおかしいと思う。死刑の判決が言い渡されて、けっこう長い間あったでしょ。言い渡されたらすぐ死刑というふうにしないと。おかしいやろ、税金でメシ食わせるのって……」