世の中には、解決に至っていない犯罪が存在する。俗に言う「未解決事件」である。
何の手がかりもないまま何年も経過したり、公訴時効を迎えて迷宮入りになったりしたケースも少なくない。しかし、ふとした出来事が、未解決だった難事件を一気に解明に向かわせることも時として起こり得る。捜査関係者の執念なのか、あるいは天の配剤か。
意外なきっかけで真相が明らかになった“元・未解決事件”を追う。
1978(昭和53)年8月15日、東京都足立区立中川小学校で図工教諭だった石川千佳子さん(当時29歳)は、当直だったにもかかわらず、学校に姿を現すことはなかった。
小学校は夏休み中とはいえ、公立学校の教員は地方公務員なので、実際に休みが取れるのは、「夏季特別休暇」の5日間だけ。出勤してこない石川さんを心配した同校の校長は、彼女が一人暮らしするアパートに電話したものの応答がない。ちょうどお盆なので帰省した可能性もある。校長は北海道小樽市の石川さんの実家に連絡を取ったが、やはりそちらにも連絡は入っていないという。
この夏休み期間、石川さんは7月末から8月12日にかけて、東京都の教職員生協が主催する東西ヨーロッパ研修旅行に参加していた。帰国したばかりだったが、無断欠勤する前日の14日にも出勤し、学校内で仕事をしていたことが確認されている。
校内を巡回していた警備員は、14日の夕方に石川さんを目にしているが、それが最後の目撃証言となった。石川さんは突如として行方をくらましてしまったのである。
最初に疑われたのは「北朝鮮による拉致」
学校関係者は自宅アパートを訪問するなどしたものの、消息を知る手立てはなく、石川さんの両親は警察に家出人失踪届を提出した。直前まで日常生活を送っており、トラブルも抱えていない。彼女には失踪する理由がないのだ。
何らかの事件に巻き込まれた可能性が浮上した。
危惧されたのが、北朝鮮による拉致であった。