足立区の小学校教諭・石川千佳子さん(当時29歳)が行方不明になってから26年。彼女を殺害した男が名乗り出て、石川さんの遺体も発見された。しかし、すでに公訴時効が成立しており、男を殺人罪で起訴することはできない。このままでは犯人の逃げ得となる可能性もあったが……。
石川さんの遺族は黙って泣き寝入りすることはなかった。男に対して逸失利益等及び原告らの慰謝料等の支払を求め、請求総額およそ1億8000万円の民事訴訟を起こしたのである。補償金が欲しいわけではない、あくまで男に社会的な制裁を与えることを求めた決断だったろう。
「殺人」の損害賠償が地裁では認められなかったが、高裁で一転
不法行為(殺害)に基づく損害賠償請求権は20年で消失するものだが、その20年をいつから起算するかが裁判では焦点となった。男が石川さんを殺害し、死体を遺棄した時点から計算すれば、26年も「過去の出来事」であるから、請求権は消失していることになる。だが、死体遺棄が「(自首するまで)現在進行形で隠し続けてきた出来事」と考えたら?
1審の東京地裁では、「殺人」は民事上でも排斥期間が経過(=時効)しているものとし、「遺体の隠匿」についての責任は認定され慰謝料330万円の賠償が命じられた。
しかし、二審の東京高裁では一審を棄却。「殺人」についても認め、4225万円の支払いを命じる判決が下された。この裁判は最終的に最高裁まで争われ、最高裁第三小法廷(那須弘平裁判長)は「被害者の死亡を知り得ない状況を、加害者があえて作り出して二十年が経過した場合、遺族が一切の権利行使を許されないのは、著しく正義・公平の理念に反する」と指摘。
「被害者の死亡を隠し続けた加害者が賠償義務を免れるのは、著しく正義に反する」として、男の上告を棄却した。