〈それはあたかも戴冠式を思わせる風景であった。
共和党全国大会の最終日、ドナルド・トランプ前大統領は指名受諾演説のため1時間半以上にわたり演壇に立ち続けた。それは、暗殺未遂事件からの健在ぶりを示すと同時に、共和党が名実ともに自分の党であることを誇示するものであった〉
正式に大統領候補として指名されたドナルド・トランプについて、こう言及したのは、冨田浩司氏だ。2020年12月から2023年11月まで駐米大使を務めた人物である。冨田氏は外務省北米局長を務めた後、駐イスラエル大使、駐韓大使も歴任したベテラン外交官だ。
ポピュリスト的政治手法の“お手本”とは?
共和党をほぼ手中に収めたトランプ氏は、アメリカ第一主義を標榜し、反・移民政策など反リベラリズムを先鋭化させることで、熱狂的支持者を集めている。長くアメリカ政治をウォッチしている冨田氏によると、こうしたトランプのポピュリスト的政治手法は、ある政治家を“お手本”にしているのだという。
〈トランプ主義の歴史的継続性は1990年代のポピュリスト運動を主導したパット・ブキャナンの政治姿勢との相似性を見ると明白だ。
レーガン大統領のスピーチライターとして活躍したブキャナンが共和党主流派に反旗を翻した背景には、20世紀後半における米国の製造業の衰退がある。国際経済環境の急速な変化によって「取り残された人々」をターゲットとする点で、ブキャナンのアプローチはトランプ主義と軌を一にする。実際に、トランプ主義の代名詞である「メーク・アメリカ・グレート・アゲイン(MAGA)」は、ブキャナンのキャッチフレーズ、「メーク・アメリカ・ファースト・アゲイン」を下敷きにしている〉
さらにブキャナンは、NATOはもちろん、日本や韓国との同盟関係を見直すことや、移民受け入れ数の制限に加えて、国境への軍隊派遣や防御壁の建設なども政策提案していた。まさにトランプの政策を先取りしていたと言えよう。