トランプが支持を集めることができた理由
これほど両者が似ているにもかかわらず、その違いが生じた原因について、冨田氏は問う。
〈以上の相似性にもかかわらず、ブキャナンが00年の大統領選挙でわずか0.4%の得票率で惨敗したのに対し、トランプは16年の選挙で勝利し、今また政権復帰に向けて共和党の候補者指名を獲得した。この違いはどこから来るのか。
結論を先に言えば、トランプが自らに忠誠心を持つ熱狂的支持層、いわゆる「MAGAベース」を掘り起こすことに成功したからだ〉
トランプを熱狂的に支持する「ベース」の多くは、中・低所得層で高等教育を受けていない人々だ。いわば、選挙で投票などしたことがない層である。こうした支持者たちが大挙して投票所に向かう破壊力は、2016年の予備選で実証されている。
〈フロリダ州の予備選を例にとれば、同州を地元とするマルコ・ルビオ上院議員は、前回12年の勝者、ミット・ロムニーに遜色のない63万票余りを獲得したが、40万票近い大差をつけられてトランプに敗北した。投票した党員数は前回に比べて約60万人増え、実に40%以上の伸びを示した。全国的にも共和党予備選の投票率は前回に比べ約5割上昇しており、「ベース」による動員力の凄まじさを示している〉
これがトランプの強さの秘密だ。
ハリスが民主党候補になったことで様相が変わった
だが、バイデン大統領が撤退し、ハリス副大統領が民主党候補に指名されたことで、大統領選挙の様相が変わった、と冨田氏は指摘する。
〈指名を確実にしているカマラ・ハリス副大統領の候補者としての力量はいまだ未知数であるが、バイデン撤退前に支持離れが顕在化していた、非白人、若年層の回帰に成功すれば、民主党への支持の底上げにつなげることができる。トランプから見ても、女性で、20歳近く年下の対立候補を相手にした選挙戦は全く違ったゲームとなり、戦略の練り直しが求められよう〉
冨田氏は銃撃事件がトランプ陣営に与えた影響を分析し、支持層を拡大する機会を失った可能性にも言及している。前駐米大使がトランプ主義を徹底分析した論考「それでもトランプ主義は強い」は、「文藝春秋」9月号、および「文藝春秋 電子版」で全文掲載されている。
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