AV業界に入った“引き金”
――それからAV業界に入るまで、何かきっかけがあったんですか?
藤 しょうもないんですけど、最後の引き金は、彼氏にフラれたことです。別にその彼にすごく執着があったわけでもないけれども、年下ですごくチヤホヤしてくれて、私にはそれが新鮮でした。それが付き合って数カ月経った頃、いきなり冷水を浴びせるように、一方的に振られたんです。振られたのは人生で初めてで、傷ついたと同時にめちゃくちゃ腹が立ちました。正直言うと、半ば自暴自棄だったんだと思います。
――自暴自棄になって、他の選択肢もある中、AV女優を選んだ理由は?
藤 小学校に入る前に「私はバレリーナになって世界のトップになる」って本気で思っていましたし、院生の頃は、「学者を極めようかな」と考えたこともあった。一生のうちに「何かの第一人者になりたい」「何かで一番になりたい」という欲望がずっとあります。でも私自身は器用貧乏というか、何でもそつなくこなせるけれど、バレエでも学業でも仕事でも一番になれない。いつも中途半端で、スポットライトを浴びられない。でも、AV女優ならば勝負できるんじゃないかって。それに、会社員とは別の顔、「裏の顔を持っている」ということになぜか昔からすごく憧れがあったんですよね。
――会社にいた頃の自分と今の自分、どっちが好きですか?
藤 迷いなく今の自分です。世の中の常識からしたら、大学院出て就職して、AVに転身するのは珍しいし変わっている……というネガティブなイメージなのかもしれないですけど、私の中ではずっと平行線のままで生きています。何なら、ちょっとフェーズが上がったな、くらいに思っています。私が取り組んできた「バレエ」や「院卒」が売り文句になって、そのギャップに価値があることもAV女優になってから気づかせてもらいました。
――AV事務所への面接は一人で決めて一人で調べたんですか?
藤 はい。面接を受けるにあたり、就職活動並みに何度も自己分析をしました。私は10歳の頃から毎日日記をつけているのですが、この時の日記を読み返すと「一度きりの人生、やりたいことをやる」「ここでやらなければ、きっと後悔する」と書きながら、「両親が悲しむだろうって思ってるのに、なんでそこまでしてAVしようとするんだろう」と、葛藤する内容が綴られています。後悔はまったくしていませんが、実は今も自問自答しています。
撮影=原田達夫/文藝春秋