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「褒められて育った選手は逆境に打ち勝つ力がない」は大嘘

 スケートボードなど、特に新しいジャンルのスポーツにおいて日本人選手の躍進が見られるのも、良く分からないOBや根性重視のコーチが不在で、選手が競技に集中できる環境を作りやすいこともあると見られます。

 特に、過剰な練習量にならないような制限や、栄養と休息のバランスは若い選手にとって特に大事で、技術指導に特化したコーチングが可能な環境こそ重要、という意識が浸透してきていることは大きいです。

 野球でも特に、古い因習を引きずる指導者からは「褒められて育った若い選手は、逆境に打ち勝つ力がない」と言われがちですが、データを見る限り、全く逆のようです。

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2年連続のホームラン王どころか三冠王まで現実的に見えている大谷翔平 ©時事通信社

 特に投手は、褒められて育ち自信を持って投球している選手のほうが、ランナーを抱えた際の投球が良いため(マイナーリーグでもメンタルが投球の品質に影響することが分かってきたので、客観的に把握するコンフィデンスという指標ができている)、基本的には試合に臨む選手の管理には、選手の特性は置いておいてとにかく褒めろという手法が定着しています。

 楽しそうに競技に臨んだり、笑顔でプレーに取り組むことで、その選手が実力を一番発揮できるように誘導しつつ、科学的に正しいトレーニングを積める方向へ日本のスポーツ界の多くが育成方針を変えたことが、明治維新から続く体育会的強化の発想からの脱却を可能とし、結果的に、世界と戦える日本人選手が各種目で増える流れになったのだろうと考えられます。

 これはもうどうしようもないことなのですが、理念的には人種や出自で人間は区別されないという平等原則もありつつ、しかしやはり背の高さや筋肉のつき方、持久力や瞬発力その他、アフリカ系選手が強いとか、北欧の選手が凄いといった分野があるのは広く知られています。

バレーボールの世界で、身長が絶対的なアドバンテージになることは否定しがたい ©JMPA

 特に、日本人選手の強化においては、野球でもその他のスポーツでも「効率よく除脂肪体重(≒筋量、出力)を増やす」とか「強い体幹を鍛える」などの大雑把なスローガンは長年掲げられてきましたが、実際にはあんまりうまくいかない時期が長く続いておりました。

 中には、アスリートとして鍛えられる限度を超えた筋トレによって、腱や靭帯を損傷して手術を余儀なくされる選手も出てきています。そういう「良かれと思って、励んできたトレーニングにより選手寿命を縮める」ケースを減らすのもまた、科学的な強化プログラムの重要な役割です。

 そして、選手のスカウティングにおいても、直近の大会などでの成績よりも、外形的に分かる骨格や筋量(出力)から選手のポテンシャルを推測するケースが増えてきました。メジャースポーツの若い選手では特に、成績はイマイチでも、スイングスピードなどのフィジカル面や、結果に大きく影響を与えるプロセスを加味したプロスペクト評価が高ければ将来期待も高いことが分かってきています。