「子供のころの過ごし方」でポテンシャルはかなり決まってしまう

 というのも、俗にぼんやりと言う地肩の強さやしっかりした体幹というのは、選手になってからではなかなか獲得できないのです。

 もちろん選手がそのスポーツに取り組む期間にしっかりとしたトレーニングを積むのは大事ですが、その所与の強さは「子供のころに、成長期を迎えるまでに適切な運動量をこなし、どれだけ多くのタンパク質を摂ってきたのかが重要であるらしい」ということが明らかになってきたからなのです。

 特に、骨端線が閉じていない、まだ身長が伸びる時代の子どもたちにとっては、ハードなトレーニングをこなしたり、筋量アップを目指したりするのは禁忌と言えます。

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 子供のころはおおいにかけっこをしたり、ジャングルジムや運てい、鉄棒を楽しんだり、プールに行く習慣があったり、基本的な運動能力・運動神経を底上げする「普通の遊び」に時間をかけ楽しんできた子どもが、子どものころからチームに入ってそのスポーツだけやってきた子たちよりも、各スポーツのユースや高校野球で活躍する傾向が強いのです。

 神経系・運動神経の良さを引き出すために、いろんな筋肉を使って日々を過ごし、充分な休息と共にタンパク質をしっかり摂ることが最終的な運動能力の強化に繋がることが分かってきています。

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 例えば、野球では打者において「相手の投球を予測するために、網膜に残像を残す力」が重要ですが、その残像を狙って狂いなくボールを打ち抜いて遠くに飛ばすためには、単に筋量を増やすよりも正確にバットを振ったり、打球が当たるまでに一気にスイングスピードを上げられる神経系が重要になってきます。

 これらの能力は、たいていにおいて成長期に大きく伸びていきます。そして、オリンピックの種目になるようないろんな競技でも、その競技で勝つための切り札となる動きや技術が選手の能力を決めています。優秀な選手ほど幼少期から成長期にかけてバランス感覚や器用さの土台になるような、総合的な運動能力と、それを支えるタンパク質を多く摂取しているという相関があるのです。

 一方、ある程度の年齢になり、骨格が固まると、身体に負担のかからないペースでいかに除脂肪体重を増やすかが勝負になってきます。ここで、日本人が不利な原因は、何より「成人すると日本人は筋トレと同時に脂肪がついてしまう」遺伝的傾向が他の種族よりも強いことがあります。

 野球選手でも、欧米流のワークアウトを取り入れてどんどん筋肥大を求める選手が出てきますが、長続きしないのは食事を同時に節制しないといけないのにそれを怠るので太るからです。そして、野球を含む多くのスポーツでは、単純な筋力量よりも、動き始めの瞬間に多くの出力を出せる初動負荷が大事な面があり、故障なく瞬発力と最大筋力を高めるには単に筋トレを一杯やることでは解決せず、故障リスクが高まります。

 残念なことに、脂肪がつきやすい体質を活かしてうまくいくスポーツはあまりなく、原則として、コンディション管理・維持のために必要な脂肪率を超えて脂肪を蓄えることは、腰や膝の内側、足首などの関節に価値のない負担を増やすため、節制による体重管理がどうしても重要になります。

この完璧な逆三角形にたどりつくのは簡単ではない ©JMPA

 日本の強化チームにおいて栄養学が特に重視されるのは、選手強化において脂肪を増やさない鶏ささみやゆで卵のような食べ物で充分にタンパク質を補給し、筋肥大時に脂肪がつかないよう工夫をする機会が増えたことで、年間を通じて除脂肪体重を増やすペースを管理し、能力強化と故障回避ができるようになった、という事情があります。

 これらの指導が徹底できるようになったのもここ10年ほどで、それまでは、筋肉が増えすぎると柔軟性が失われるとか、または逆に焼き肉でも白飯でも腹いっぱい食べろなどの指導が長年行われ、結果的に、日本人選手の基礎的な運動能力でマイナスになってきました。長時間のランニングで筋肉を落とし続けてきた強化の黒歴史から早く脱却するべきです。

 小学生、中学生の基礎トレで言うならば、タバタ式とミニハードル、短いシャトルランだけで充分とさえ言えます。とにかく幼少期から成長期に故障しないことが大事です。

 科学的なトレーニングと言っても日々進化しており、また、状況によっては矛盾するデータや論文の中から「この選手にとっては、このリスクを負ってでもこっちのトレーニングをやるべき」という判断をできるようにするのが、強化を担当するコーチの役割になっていくでしょう。

 そのような事実に気づいている競技の協会から、順に選手が強くなっていっているのではないかと思います。