わたしたちはあのコロナ禍でどれほど傷ついたことか。それは日本もアメリカも、あるいは遠い他の国々でも変わらない。「ディスタンス」によって隔てられてしまったわたしたち。それをともに悲しみ、その悲しみに寄り添ってくれるのがアマンダ・ゴーマンの言葉たちであり、それを乗り越えて、かつてあった絆をつなぎ直してゆこうという意志の調べも、『わたしたちの担うもの』には力強く脈打っている。

現代米文学の最新形がここに

 そんな「ポスト・コロナのわたしたち」に向けたメッセージの強さに加え、それを乗せるべく言葉を彫琢することで生み出された「現代文学における最新の形」(鴻巣友季子氏「訳者解説」より)も見逃してはならない。SNSでの対話を模したレイアウトによる作品、日記や脚本の形式をつかった作品、そして言葉や文字が魚や議事堂の形になった作品。あるいは同じ音が反復された作品があり、別の言葉と響き合わせた作品がある。文字は読むだけでなく「見る」ものでもあるし、また「聴く」ものでもある。そんな「言葉/文字」に秘められた力を、アマンダ・ゴーマンは駆使している。

魚型に成形された作品「エセックスⅠ」

 ページを開けば、黒地に白文字のページがあり、あの頃わたしたちの誰もが身に着けたマスクの図像があり、黒人兵士の遺した従軍手帳がある。そんな華麗な「文字のヴィジュアル」と戯れ、さらにそこに込められた「希望」と「変化」へのメッセージを読み込む。本書はさまざまなレベルで、「言葉の力」をあらためてわたしたちに教えてくれるのである。

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マスク型に切り抜かれた作品「匿名の」

 本書は著者によるこんな言葉でしめくくられている。

 神に感謝します。祖先に感謝します。

 わたしは黒人作家たちの娘。縛め(チェインズ)を断ち切り、世界を変えた(チェンジ)自由の闘士たちの裔。かれらがわたしを呼ぶ。わたしは彼らを担いつづける。

【告知】

わたしたちの担うもの』の翻訳者・鴻巣友季子さんと、『女の子たち風船爆弾をつくる』の著者小林エリカさんによるトークイベント〈ことばの力とエンパワメント〉がジュンク堂書店池袋本店にて2024年8月21日(水)19:00~より開催されます。配信およびアーカイブ視聴も可能です。

お申し込みは https://online.maruzenjunkudo.co.jp/products/j70019-240821 へ。