「子供たちには『崖っぷちに立たされた時こそ、力を出すんだぞ』と言って接してきました。いろんな方々の応援、支援をいただいてここまで来ることができた。彼らも『俺たちがやらなきゃどうする!』と、全員が自負を持って試合に臨んでくれました」
石川県立飯田高校ウエイトリフティング部監督の浅田久美さん(61)は、終えたばかりの全国高校総体(インターハイ)をそう振り返った。
長崎県諫早市で8月1日から5日にかけて行われたウエイトリフティング競技。同校3年の山下由起くん(89キロ級)は「スナッチ」「クリーン&ジャーク」でともに大会新記録を更新し、インターハイ2連覇を達成。学校対抗の団体戦では、飯田高校が準優勝に輝いた。
「団体戦は、出場した5人全員が得点(各階級の8位入賞以上にポイント)を獲得しました。1点でも欠けたら準優勝はなかった。全員が得点したことに意義があるし、そこを評価してあげたい」(同前)
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地震の甚大な被害を受けた、珠洲市の飯田高校
飯田高校は能登半島先端の珠洲市にある。今年元日の能登半島地震では、街全域が甚大な被害を受けた。
昨年末、浅田さんは、ウエイトリフティング部のコーチで夫の浩伸さん(53)と、自身の故郷・岩手県釜石市に帰省。車で釜石から珠洲へ戻る道中、能登半島地震の緊急速報が飛び込んだ。13年前、浅田さんは東日本大震災の大津波で親族2人を亡くしている。無事を願いながら、高校や市内の教え子たちに連絡を取り続けた。
物資を買い込んだ車で寝泊まりしつつ、石川県金沢市に到達したのは1月3日。連絡がついた珠洲市内の知人は、浅田さんにこう告げた。
「街だけでなく道路がズタズタ。命が惜しかったら、夜こっちに向かっちゃダメ」
その翌日、浅田さん夫妻は悪路を乗り越え、珠洲市に辿り着く。自宅は倒壊を免れていたが、屋根瓦が落ち、家の中はグチャグチャになっていた。幸い、義父母や教え子たちの無事は確認できたが――。
「しばらくは余震が怖くて、夜は車中泊をしていました。珠洲の街は変わり果ててしまっていて、部員の中にも、家が潰れた子、身内を亡くした子がいました。練習で使っていた市のウエイトリフティング場は無事だったんですが、当面は災害支援に来てくれた福井県職員の待機場所になりました」(浅田さん)