高齢者専門の精神科医として、36年間、延べ6000人の患者を診てきた和田秀樹氏。高齢者は重要な消費者で、「日本経済が復活する芽」だと考え、高齢者の生き方にスポットを当てた著書を多数出版している。

 ここでは、そんな和田氏が、高齢者が人生を楽しむためのヒントを綴った新著『老いるが勝ち!』(文春新書)より一部を抜粋。和田氏が「高齢者は免許を返納すべきではない」と考える理由とは——。(全2回の1回目/2回目に続く

写真はイメージ ©hika_chan/イメージマート

◆◆◆

ADVERTISEMENT

高齢者の事故率は決して多くない

 世の中は理屈通りにはいかない。その認識を深めるべきです。

 しかも、理屈だけで終わるわけではありません。理屈通りに物事を進めようとすると、やはり被害者が出てしまうのです。薬だって副作用もありますからね。

 ゼロコロナのときもそう思ったのですが、どんなものにも害はあるわけです。自粛生活や自粛政策にも害がある。ワクチンにも害がある。

 理屈通りにはいかない良い例が、さきほど触れた免許証の返納です。もう少し詳しく考えてみます。

 私の著書『80歳の壁』で、もっとも高齢者に支持されたのは、「高齢者は免許証を返納する必要はない」という件です。

 高齢者の事故の理屈と現実についてお話ししますと、【図表2】をご覧ください。

原付以上運転者(第1当事者)の免許保有者10万人当たり交通事故件数(2023年)

 2023年の警察庁のデータによれば、高齢者の事故率は、人口10万人当たりで考えた場合でも決して多くはありません。むしろ、10代、20代のほうが多いのが現実です。さすがに75歳を超えるとちょっと増える傾向にはあります。

1人の人身事故により49999人が連帯責任を取らされている

 85歳以上の運転者が第一当事者である事故に特徴的なのは、他人をはねているのではなくて、車両単独と言って、自分が犠牲になることが多いのです。

 85歳以上の死亡事故は10万人に11.4件で、その18パーセントが人をはねる事故です。つまり、人をはねる死亡事故は、10万人に2件ですから、5万人に1件です。はねていない人が5万人中に49999人いるわけです。