デビュー作『ウツ婚!! 死にたい私が生き延びるための婚活』で、高校中退→家出→大学入学→中退→精神科→婚活→結婚までの怒涛の日々と婚活how toを綴った石田月美氏。妻になり、母になっても満たされない、さらなる地獄の珍道中を綴った発売中の『まだ、うまく眠れない』(文藝春秋)から一部抜粋してお届けします。
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ケアワークは尊い。でも……
幸せなんてもうとっくに望んでおらず、自分がそれに値する人間だとも思わない。ただ少しでもマシに、少しでも楽になりたくて、私は私を書く。
「ママは子どもの頃、どんな大人になりたかった?」。娘に尋ねられ、そうねぇ少なくとも今のようになりたくはなかったよ、という返答を喉元で抑え、「あなたのママになれて嬉しい」と論点をずらしてけむに巻いた。
普通に生きて普通に壊れてきた気がする。思春期や反抗期と同じくらい当たり前に暴力や障害があり、当たり前に病気になるくらいには世間と足並み揃わぬことが苦痛で、多くの人が当たり前にしていることがしたくてその一つが働くことだった。若い頃は有り余るエネルギーとまさにその年齢のおかげで働けた。だが40歳の今、私には書くという不安定な営みしか残されていない。事実、ここ10年で私が採用されたのはコールセンターのアポインターのみで、喜び勇んで行ったらオシャレに言って「闇バイト」、ハッキリ言えば「詐欺」の現場で辞退した。私にとって書くことは崇高な理念などなく労働で、しかしようやくありついた労働だった。
ケアワークが尊いことに異論はなく、専業主婦や母親業を私は大いに肯定したい。けれど私個人に限っては、妻や母という誰かに付随する役割にしがみついただけで、胸を張れるほど家事育児が得意なわけでも向いているとも思えず、このままでは私だけでなく家族も壊しかねない危機の渦中に書く機会が与えられ、取るものも取り敢えずそちらにしがみつき恥を書き散らしている。「結婚して子どもを産んですっかり回復しましたね」。ステレオタイプな回復像を喜んでくれる善意の人たちの前で私は取り繕うだけに必死で、いつすべてをクラッシュさせるか怯え、「贅沢な悩み」という言葉に反論する余裕もなくポーズを取り続ける緊張感の中、震え痺(しび)れるこの無理な姿勢が崩れ落ちれば私は愛する人たちを巻き込み取り返しのつかないことをするだろうと嫌な確信だけがあった。