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「虎に翼」が「玉音放送」によって敗戦を描かなかったワケ

 実は、この「虎に翼」では天皇制が描かれない重要な場面がある。「玉音放送」である。戦争を描くドラマでは、多くは敗戦を「玉音放送」で知らせる。しかし、この「虎に翼」はそれがないのである。

 敗戦は尾野真千子のナレーションのみで視聴者に伝えられた。その代わりに敗戦後の社会の変化を伝えるものとして、闇市で買った焼き鳥を手に寅子が河原へ向かうと、焼き鳥が包まれていた新聞の中に「日本国憲法」の記事を見つける場面が描かれた。

「玉音放送」によって敗戦を描くことはすなわち、私たちが天皇制という制度を未だに心のなかで意識し、それが根底にあることを示す。

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昭和天皇 ©JMPA

 しかし「虎に翼」は、あくまで個々人にとっての戦争、戦争責任ということが描かれる。そのため、天皇制という大文字の主語が登場しないのである。総力戦研究所も、天皇制国家の下に設置されたとしてとらえるのではなく、そこに航一が参画し、戦争を止められなかったことに対する悔恨を、航一の個の内面から描こうとしている。天皇制を描かないことで、あえて大きな主語に収斂させて他人事と考えるのではなく、むしろ自身の問題として、「法の下の平等」や戦争責任を意識していこうとする意図がそこにはあるのではないだろうか。

朝ドラ「虎に翼」公式Xより

 今後、「虎に翼」では三淵嘉子が携わったアメリカの原爆投下について問う裁判が登場するようである。寅子はそれにどうかかわっていくのか。注目していきたい。