誰もが見落としてしまっていたことを映画にした
――加納土(かのう・つち)さん演じる男性が、小川さん演じる主人公に近づいてきて、いっしょに石や砂や木の枝で遊びをする目的や意味は明示されません。最初戸惑っている彼女の行動も、流されているようでもあるし自ら選んでいるようでもある。変わっていく2人の微妙な距離感をどう感じるか、観る者に委ねられています。
小川 単純に答えの出ない人間同士の関係を緻密に描くという、誰もが見落としてしまっていたことを『石がある』はすくいあげています。いまの映画づくりはどんどんテクノロジーが進んでいて、みんながそこで新しい表現を生み出そうとしていますが、物語の突飛さや最新技術とは関係なく、シンプルで、描かれるべき映画があることを世界に知らしめたと思っています。
海外の映画祭でこの映画を観た映画関係者、一般の方からいろんな感想をいただきました。ものすごく豊かな時間だった、身近で小さな発見がこの映画にはたくさんあったとおっしゃる方が多かったですね。
――小川さんがこの映画に参加された経緯はどのようなものでしょうか。
小川 この映画のお話をいただいたときに、私は俳優を辞めていたんです。その時に、以前現場でご一緒した太田監督にメールをいただいて、小川さんにぜひ出演してほしい作品がある、一度お会いしたいと言われたんです。私は俳優を辞めていることをお伝えして、でも太田さんに久しぶりにお会いしたかったので、喫茶店でお話をうかがったんです。
そこで「川を歩いて石を探すだけの映画なんですけど」とおっしゃって、主人公に私をあてがきしてくださったと。私は俳優を辞めていて、時間が止まったように何も進んでいなかったときだったんですが、太田監督のお話を聞いていて、この物語の速度だったら歩き出せる気がすると思いました。映画では、私の演じる人物が、戸惑いながら一歩を踏み出す様子が描かれていますが、私の中では自分が俳優業に復帰することに重ね合わせて、ドキュメンタリーであるような意識もありました。