ひとつひとつ悩みながら作り上げた
――俳優を一時休業されていたことは後ほど伺わせていただきたいと思いますが、撮影はどんな様子で進みましたか。
小川 少人数で10日間泊まり込んでの撮影でした。台詞があったり2人の関係が動くシーンはシナリオに書かれていましたが、川での遊びは現場で見つけたもので考えて、遊んでいるところをそのまま撮っています。映画に使われたよりもずっと長く遊んでいました(笑)。
――遊びのシーンはドキュメンタルな感じで、その場で偶々起こったことがそのまま捉えられていますね。映画の中ではあまり詳しく語られませんが、小川さんの演じた役柄はどのような人なのでしょうか。
小川 旅行会社につとめていて、ツアーの企画を出すつもりで地方の観光地に行ったという設定です。普段の俳優としての役づくりだともっと細かく詰めるんですけど、今回はほとんどそれ以上の役づくりはしませんでした。彼女のバックグラウンドは明確にしない方がいいだろうと思ったんです。
――彼女は男性の言動に不審を感じたこともあってか、幾度か男性から離れようとしますが、結局いっしょに川辺を歩いていきます。
小川 それまで彼女は、選択ということを性格的にあまりしたことがなかったのではないかと思います。突然生まれた2人きりの空間を、このまま続けていくのか、この人を切り離して帰るのか、揺れている。普段の人間関係でもそういうことはありますよね。近づいたり遠ざかったり、距離を置きながらいっしょに進むという複雑で繊細な人間関係。
たとえば砂地を上るところで男性が手を貸そうとすると、さりげなくその手は取らずに自分で行ったり、小石を投げて石にあてて点数をつける遊びで同時に点数を叫んだりすることで、距離が近づいていったりする。
――そういう細やかな描写に目を止めると、とても豊かな時間を感じることができますね。
小川 現場ではものすごくいろいろなことを話しました。石をつかむ、転がす、川を歩くということにどんな意味があるのか。社会と人間の関係、孤独であること。この映画で描かれていることは、非生産的とも言えるし、無目的とも言えますが、それを描くことにどんな意味が生まれるのか。
太田監督はすごく悩みながらこの映画をつくっていました。私たちに悩んでいる時間を共有してくれましたが、数時間悩んでいたので、監督待ちも多くありました(笑)。みんなでお昼寝して待っていたりしました。一見、シンプルなのでさらりとつくっているように感じられるかもしれませんが、本当にひとつひとつ悩みながらつくった映画なんです。
撮影 橋本篤/文藝春秋
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