リム・カーワイ監督をキュレータ―に迎えてリニューアルした「台湾文化センター 台湾映画上映会」。その第4回が7月21日、東京外国語大学(東京・府中市)で開かれた。日本では虐待から売春や麻薬にかかわる少女を描いた『あんのこと』がヒットしているが、今回上映されたのも過酷な状況におかれ罪に手を染めていく少年少女を描いた衝撃的な新作。上映後に行われたトークイベントの模様をレポートする。(#1、#2、#3を読む)
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町を出るため売春とドラッグに手を染める二人
この日上映されたのは、2023年製作の『少年と少女』。トークイベントには、同作のシュウ・リーダ監督と、三澤真美恵・日本大学文理学部教授(台湾映画史研究)が登壇した。
『少年と少女』
寂れた海辺の小さな町で、無気力な14歳の少年は、貧しく親のない14歳の少女と出会う。少女はサッカーのコーチと関係を持ち、妊娠して棄てられたばかりだった。秘密を知った少年は、少女にコーチから金をせしめる計画を持ちかけるが、計画は失敗。町から出ていくために、すべてから逃げ出すために、少女が売春をし、少年がドラッグを売ることで金を稼ごうとするが……。台湾の暗部に焦点を当てた、シュウ・リーダ監督の初長篇作品。主演のふたりは演技未経験だったが、トラヴィス・フーは金馬奨新人俳優賞にノミネートされた。
監督:シュウ・リーダ(許立達)、出演:トラヴィス・フー(胡語恆)、イン・チエンレイ(尹茜蕾) /2023年/台湾/140分/©Rise Productions Co., Ltd.
三澤真美恵教授(以下、三澤) シュウ・リーダ監督は、台湾で今最も期待されている若手の監督のひとりと言っていいかと思います。初めて監督作を拝見しましたが、題材の重さに圧倒されました。同時に鉛色の空と海、街の凄惨な美しさが胸に突き刺さるような思いがしました。フランソワ・トリュフォーの『大人は判ってくれない』を想起しました。
日本で台湾は、アジアで初めて同性婚を合法化したり、ジェンダー平等、民主主義指数でアジア1位と、きらきらとした人権立国という印象が強いかと思います。しかしこの映画は、それとは真逆の印象を与えるものでした。