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 こうした台湾社会の暗い一面を描くことができる、論じることができることに、台湾を支えている表現の自由を感じます。重い題材を極めて映画的な美しさで提示することで、現代台湾社会のかかえる問題を可視化するとともに、問題の持っている普遍性に気づかせてくれる作品だと思いました。

シュウ・リーダ監督(以下、シュウ) ありがとうございます。

演技経験のない14歳の少年少女にこだわった理由

三澤 地域間格差、単身家庭、DV、警官の汚職、未成年の性売買、子どもに対するネグレクト、ドラッグと、深刻な問題が次々に出てきます。なぜこのような題材を映画にしようと思われたのでしょうか。

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シュウ この作品の脚本を書く前に、ドキュメンタリー映画を製作していて、台湾のある小さな村に行きました。そこで、「この村は貧しくて希望がない、子どもたちは皆遠くへ行ってしまう。この状況を映画にしてほしい」と言われたのです。そこから台湾社会が抱える様々な問題を盛り込みました。

シュウ・リーダ監督 ©文藝春秋

三澤 主人公を演じた少年と少女の役者が素晴らしかった。演技経験がなかったそうですが、どのように配役を決められたのでしょうか。

シュウ 今回キャスティングに当たって、演技の経験がないことと、実際に役と同じ14歳であることにこだわりました。普通は14歳の役と言っても、年嵩の俳優が演じることが多いでしょう。しかしそれは避けたかった。なぜなら、高校生になるとほとんど大人に近くなって自由にどこにでも行けますが、しかし中学生なら行動にも制限がありますし、多感な時期の微妙な空気を演出したかったのです。

 まず最初に選んだのが少女を演じたイン・チエンレイでした。彼女はカメラテストで送られてきた映像が非常に印象的でした。背景が伝統的な家庭で、話すのもとても台湾らしい言葉でした。彼女はすぐに決めましたが、逆に少年については難航しました。トラヴィス・フーに決まったのは、撮影の3カ月くらい前です。

三澤教授(左から2人目)と語り合うシュウ監督(右端)

三澤 舞台となった町や海に寂寥感があり、印象的です。

シュウ そうですね。撮影を行ったのは台湾の西部の町です。美しい場所ですが、どこか寂しさを感じさせるのです。そのせいか、そこで映画を撮る人は多くありません。