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紋別で手にした高峰秀子の自伝

――どのくらい北海道に?

小川 結局1年にも満たない期間でした。彼が過酷なホタテ漁で疲労骨折してしまって、働けなくなってしまったこともありましたが、ある時やっぱり書店に行きたくなって、2時間かけてブックオフに行って、そこで高峰秀子さんの自伝を見つけてしまった。高峰さんは割り切って銀幕女優として仕事をされていて、プライベートは切り離されていた。もしかしたら私も割り切って、できることだけを映画でやって、あとは別という生き方ができるだろうか。そんなやり方なら私にもできるかもしれないと考えていました。ちょうどそんなときに、『石がある』のお話をいただいたんです。

『石がある』©inasato

 コロナ禍での「ミニシアター・エイド」で寄付したリターンの「サンクス・シアター」で、佐藤真監督の『花子』と杉田協士監督の『ひかりの歌』を観たのもその頃でした。とても感動しました。こういう無理のない、自分に届く範囲で真摯に向き合っている、素晴らしい映画をつくっている、そういう映画づくりがあるということを知って、映画に対する希望を取り戻せたんです。

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――復帰後は、以前の小川さんと何が変わったのでしょうか。

撮影 橋本篤/文藝春秋

小川 無理をしない、自分にできることは限られているって、ある種あきらめました。でもそのあきらめた先に、自分の感覚としては、究極な美しい映画の世界があると思っています。復帰した後は、そういう自分と同じようなことを思って映画をつくっている方とだけ一緒に作品をつくることにしました。これからどう進んでいけばいいかが、かなり自分で理解できて楽になりました。

 最近、日本の新作映画が海外で評価されることが少しずつ増えてきたように思っています。いま海外で評価されている日本映画は、ハリウッドの真似をしないで、日本の日常ベースの繊細な生活を表現した作品だと思います。素朴な人間性が実直に描かれる、そんな作品づくりに関わっていきたいと思っています。

『石がある』©inasato