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誰ともしゃべれない無の地獄

――スタッフからは何か指示されたり?

矢沢 いや、何も言われないんですよ。ほんと、「一切の情報を遮断された状態で暮らすように」っていう説明を受けただけ。

 なので、カメラの前で何時間もずーっとエピソードトークしたり。あと、「第六感を研ぎ澄ませ」的なことも言われていたから、「ひょっとしたら、謎解きゲームとか脱出ゲームみたいな企画で、部屋の中に何か隠してあるんじゃないか?」と考え出して、いろいろ部屋のなかを探してみたりして。

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 だって、何もわからないし、何も起きないって、おかしいことじゃないですか。

――不安になりますよね。芸人として、なにかしらリアクションしないといけないんじゃないかと。

矢沢 だから、しゃべるしかないんですけど、そんなもの24時間のうちの一瞬じゃないですか。しゃべるっていっても、大抵は10分で終わってしまうし。エピソードを変えて、いろいろ喋っても、24時間をカバーすることなんてできない。弁当を持ってきてくれるADに話しかけても、完全無視されるし。上に落書きしたり、懐かしい曲を脳内再生したりもしたけど、そんなの2時間が限界ですよ。

「ここにいろ」しかないのって、無の地獄なんですよ。無なのも地獄だったけど、一番キツかったのが誰ともしゃべれないこと。しゃべるのが好きで芸人になったというのがあったので、それができなかったのは大きかった。

 

3日目にぶっ壊れちゃって病院へ

――どれぐらいの日数で、辛くなりましたか。

矢沢 1日目か2日目から「マジできちぃ」ってなって、それが積もり積もって3日目に1回ぶっ壊れちゃったんですよね。熱が出て、下痢になって、寒くてブルブル震えるみたいな。で、「ウ~」って唸り声を出すくらいまでになっちゃって。それでスタッフを呼んで、泣きながら「限界です」って言ったけど、とりあえずなだめられて続けることにして。

――発熱、下痢、悪寒、呻吟が生じてるなら、とりあえず医者に診てもらうか、休んだほうがいいですよね。

矢沢 精神的にも肉体的にもあんな状態になったのって、生まれて初めてだったから怖くなって。でも、好きで芸人の道に進んだわけだから、なんとか続けてたんですけど。さすがにヤバそうだなってことで、目隠しとヘッドフォンをつけた状態で病院に連れて行かれました。

 ただ、医者にどう状況を説明していいのかわからないんですよ。僕はすべてを教えてもらっていないし、秘密と謎だらけだし。それで医者にも「実はテレビ番組で監禁みたいなことをされてるんです」とだけ話したら、「ストレスでおかしくなってると思うんだけど、やめられないの?」と不思議そうな顔で言われて。だけど僕の立場的に「わかりません」と答えるしかないんですよ。番組がどうかなったら、僕は吉本をクビだし、芸人を続けられない。で、連れ戻されて続行です。