現役の時に第一志望に受からなければ、諦めるのがあたりまえ。なぜ女子学生の間でそんな規範が共有されているのか。その原因を、「周囲から逸脱する怖さ」だとNさんは話してくれました。

 現役で大学に進学し、大学院と併せて6年でストレートに卒業する、その上で適齢期に結婚・出産をする。この暗黙のうちに敷かれたレールから逸れるだけの価値を信じられないことには、浪人や留年などの選択はできない。今でこそ、1年のビハインドなんて大したことではないと思えるものの、誰に言われたわけでもなく「浪人すると婚期や出産適齢期を逃す」という言説を信じ、大学院進学を想定している自分の場合は特に、1年遅れることはできないと考えていたそうです。

 さて、Nさんの場合、「敷かれたレール」はなんとなく感じていたものであり、保護者の方に浪人を反対されるという経験はなかったそうですが、実際に「浪人すると婚期や出産適齢期を逃す」という言説を信じ、浪人を反対する保護者もいます。

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浪人したらいき遅れるという心配

 Mさんは、関西の公立進学校に通う高校3年生の女子学生です。大阪大学の法学部を志望しており、勉学に励んでいます。Mさんのご家庭では浪人は禁止されていて、滑り止めに複数の私立大学を受験予定です。今回、母親にお話を伺う機会を得たため、なぜ浪人を止めるのかを聞きました。

 最初に出てきたのは、金銭面の不安でした。先ほど述べたように、現役で私立大学に進学するのであれば、浪人して国公立大学に行く方が経済的です。私たちがこの事実に触れると、Mさんのお母様も保護者会等で聞いてすでに知っていると答えました。

 つまり、浪人に反対する本当の理由は、金銭面の不安ではなかったのです。詳しく聞いてみると、「子育てなどを考慮すると1年遅れることが後々ネックになるのではないか」といった不安を口にしました。

「子育てには体力が必要になるので、娘には若いうちに子育てをしてほしい。だから、男の子は浪人をしても良いかもしれないけれど、娘には浪人をしてほしくない」

 お話の中で見えてきたのは、子育てを女性特有のライフイベントだとする価値観の上に成り立つ、漠然とした焦り・不安でした。