画期的だったつんく♂の審査法
ただ歌ったり踊ったりしているところだけでなく、受験者の家庭やサバイバル合宿にもどんどんカメラが入っていき、それぞれの素の表情を映し出す。その臨場感が視聴者を惹きつけた。
そもそもモー娘。のインディーズデビュー、5万枚手売りという前例のないことができたのも、『ASAYAN』がドキュメンタリー的なリアルさを志向していたからだろう。そうしたことの積み重ねのなかで、メンバー同士の激しいライバル意識も隠さない、それまでのただの可愛いアイドルとはひと味もふた味も違うモー娘。のアイデンティティが形づくられていった。
つんく♂の審査スタイルも画期的だった。
まず、審査するのはつんく♂1人というのが新しかった。従来のオーディション番組であれば、審査員はずらりと4、5人並んでいるのが当たり前。だがモー娘。オーディションでは、つんく♂が1人で審査した。しかも対面での審査ではなく、1人別室で受験者の映像を見ながらあれこれ論評するというケースが多かった。
立ち位置的には、家で見ている視聴者と同じである。実際、つんく♂の発する言葉にはファン目線が感じられた。
アイドルファンの変化
たとえば、安倍なつみと面談後、あまりの完璧な笑顔に「安倍の笑顔が怖かったなー」と一歩引いた目線での感想を漏らしたり、ロック志向で最初はアイドルらしからぬ細眉だった石黒彩には「石黒の眉毛も社会にどんどん溶け込んでいったよな」と軽くいじったりする。
オーディション番組の審査員と言えば、業界の大物が厳しい顔つきでもったいぶった講評を述べる。そんな堅苦しいイメージだったが、『ASAYAN』のつんく♂の言葉はフランクで、いかにもファンがテレビの前で言っていそうなものだった。
その姿は、多くのアイドルファンから支持された。ネットでは親しみを込めて本名の「寺田」などと呼ばれ、つんく♂はまるで同じファン仲間のような扱いを受けた。
逆に言うと、『ASAYAN』を見ているファンもつんく♂に自分を重ね、審査員気分に浸ることができた。元々アイドルファンにはプロデューサー目線でアイドルを見るひとも少なくないが、「2ちゃんねる」のようなネット掲示板も登場するなかで一家言を持つようなアイドルファンが格段に増えた。