また、『ASAYAN』ではつんく♂の発想のユニークさが垣間見えることもあり、そこもひとつ見どころだった。

たとえば、つんく♂がモー娘。メンバーに「LOVEマシーン」のコンセプトを説明する場面。「不景気だろうが何だろうが、みんな恋はする」「いろんな恋がインフレ起こしてる」と饒舌に語るつんく♂だが、ここでもVTRを見ている矢部は「何言うとんねん」とすかさずツッコミを入れる。

ツッコみだらけの「LOVEマシーン」

矢部がツッコみたくなる気持ちもわからないではない。

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アイドルが歌うラブソングと言えばさわやかな純愛ソングというのが相場。それなのに「LOVEマシーン」では、「不景気」「インフレーション」、さらには「就職希望」といったラブソングにしてはあまりに突拍子もない、ミスマッチなワードが次々と出てくるからだ。

だが「LOVEマシーン」は、人びとのこころをとらえた。当時夜の巷では中年サラリーマンもカラオケで歌いまくるほどの国民的ヒット曲、ミリオンセラーになった。

「LOVEマシーン」が発売された1999年。それは日本でもベストセラーになった『ノストラダムスの大予言』が人類滅亡を予言した年であり、世にはどんよりとした世紀末気分が漂っていた。経済的にも長い平成不況の真っ只中。決して明るい時代ではなかった。

しかしそのなかで、モー娘。だけは元気だった。「どんなに不景気だって 恋はインフレーション」「日本の未来は 世界がうらやむ」と16ビートに乗って異色のラブソングを歌い踊るモー娘。は、停滞した空気を振り払うヒーローとしてみんなをとりこにしたのである。

その裏には、世相を敏感に感じ取って曲に盛り込むつんく♂の匠の技があった。

太田 省一(おおた・しょういち)
社会学者
1960年生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。テレビと戦後日本、お笑い、アイドルなど、メディアと社会・文化の関係をテーマに執筆活動を展開。著書に『社会は笑う』『ニッポン男性アイドル史』(以上、青弓社ライブラリー)、『紅白歌合戦と日本人』(筑摩選書)、『SMAPと平成ニッポン』(光文社新書)、『芸人最強社会ニッポン』(朝日新書)、『攻めてるテレ東、愛されるテレ東』(東京大学出版会)、『すべてはタモリ、たけし、さんまから始まった』(ちくま新書)、『21世紀 テレ東番組 ベスト100』(星海社新書)などがある。