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突然、ドドドーッという地響きが…

「小屋に行こう」という声が聞こえた。

 T大の学生たちも小屋への移動を考えていた。それでD大のリーダーとサブリーダーたちと一緒に小屋へ偵察に行くことになった。

 小屋の近くの沢が氾濫していて膝までの徒渉であった。

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 暗闇の中をやっとの思いで歩き、小屋に着いてみると、小屋はもぬけのカラであった。ガスランプとロウソクが照らし出す小屋は傾いており、濁流に襲われている最中であった。

 頼みにしていた小屋には誰もおらず、小屋は風前の灯に見えた。背筋を悪寒が走った。不安が急激に押し寄せてきた。

 急いでテント場に戻った。行く時には膝までだった沢が、わずかの間に10センチほども増水しており、膝上の徒渉であった。

 両俣にはただならぬ雰囲気が感じられた。

 偵察隊が小屋から戻る前に、D大の残留メンバーは、T大のいる高台まで避難してきていた。サブザック数個とザック数個を持ってきていた。

 テント場に戻った偵察隊と一緒に、野呂川の流れを見ていた時であった。

 突然、ドドドーッという地響きがしたかと思ったとたん、山が崩れ落ちてきた。そう思った。

「逃げろ!」

「上へ逃げろ!」

土石で埋まった両俣小屋裏口(1982年8月撮影)

 くもの子を散らすように、16人は逃げた。登った。登山道はもはやどこにあるのかわからず、山中を登った。駆け上がった。

 しばらく登り、轟音が聞こえなくなったころに足を止め、名を呼び合って集合することができた。Y君が足をくじき、少しケガをした他は全員無事であった。

 とにかく馬鹿尾根まで出ようということになって、D大とT大は一列になり、どしゃ降りの暗い山中を登った。

 Y君は、みんなのペースで歩くことができなかった。足首は痛むし、すねの血は止まらない。

「いいや、俺を置いて先に行ってくれ。後からゆっくり登っていくから」

「何言ってるんだ。ゆっくり行くから、お前も頑張れ。弱音を吐くな」

 励ましながら登った。

 馬鹿尾根に着いた。8月2日午前1時30分であった。