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妊娠がわかると姿を消した

 ぼくがスミちゃんと結婚したのは、それから何年か経った頃だった。

 当時、コント55号で人気が出たぼくは、テレビ番組の視聴率も絶好調で、今のアイドルみたいに人気があった。周りに素敵な女性も現れるようになって、結婚も考え始めた。でも、その前にスミちゃんにお礼を言わなきゃいけない、と思っていたの。

 それで彼女に会い、「有名になってお金も入ってきたから、恩返しをしたい」とぼくは言った。そうしたら、スミちゃんは首を振るばかりでね。

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©文藝春秋

「私はなーんにもいらない。そんなつもりじゃないんだから」

「でも、何か欲しいものはないの? お店をやりたいとかさ」

 すると、彼女はこう言った。

「そうだなあ。子供かな。私も子供を1人くらい育てられたらいいなって思っている。それだけよ」

 ぼくはその日、彼女に初めて抱き着いた。そうしたら本当に子供が出来ちゃったんだ。

 ところが、困ったのはその後。スミちゃんは妊娠したことが分かると、ぼくの前から姿を消しちゃったの。ある日、「生まれた子に名前を付けて」と電話がきて、それっきりどこに住んでいるのかも教えてくれない。

 彼女はぼくが人気者になったのを見て、「私なんかと結婚したら仕事の邪魔になる」と思ったようだ。父親を早くに亡くしたスミちゃんは、母と妹の生活のために新潟から東京に出てきて、浅草で踊り子になった。つらいこともあっただろうし、いろんな思いがあったんだろう。

記者会見で「実は結婚しているんです」

 でも、ぼくの方はそういうわけにはいかない。それで、ある週刊誌の知り合いに相談して、記者会見を開くことにしたの。NHKの記者クラブでぼくは自分に子供がいること、その人と結婚することをカメラの前で喋った。

「実は結婚をしているんです」

 会見ではそう言ったけれど、実はそれがスミちゃんへのプロポーズの言葉だったんだ。

 そのとき、スミちゃんはお母さんと一緒に、会見をテレビで見ていたそうだ。突然、自分の名前が出てきて、ぼくが「結婚をしている」と言ったものだから驚いた。

©文藝春秋

 どうにか居場所が分かって会えたとき、

「何か問題があるなら、ぼくは芸能界を辞めてもいいと思っている。だから、一緒になろう」

 と、ぼくは言った。

 スミちゃんはとても怒っていたよ。

「せっかく有名になれたのに、そんなことを言っちゃいけない」って。

 そうして結婚して以来、スミちゃんはずっとぼくの「姐さん」であり続けた。彼女は「男は仕事をしなさい」といつも言っていてさ。そうやって家庭を守ってくれたから、ぼくはいつも「笑い」のことだけを考えることができた。そして、週末に二宮の家に帰ると、彼女は必ずお化粧をして迎えてくれてね。

 でも、デートらしいデートもしたことがなかったんだ。二人で家の近くの畑を手をつないで十分歩いたくらい。