「プラトニックな恋?」という質問にうんざりしていた

 そんなふうに彼の献身的なところが目立つせいか、連載中には読者から「これってプラトニックな恋ですよね?」といった質問も受けたらしい。しかし、作者の内田春菊からすれば《連載中私はこの作品を「小美人ポルノ」と呼んでたくらいなのに、ペニスが挿入されないというだけの理由でぬけぬけと「プラトニックな恋」などと言う人たちにもうんざりだった》という(「あとがき '93」、『南くんの恋人』新装改訂版、青林堂、1994年所収)。実際、作中では、南くんがちよみに小さくなる以前からしていたという全身へのキスをするなど、ペッティングを思わせる行為におよぶシーンも出てくる。

『南くんの恋人』(文春文庫)

 連載から数年後、あるテレビ局からハイビジョンを全編に使った映画化の話を受けたものの、内田がけっきょく断ったのも、局側の担当者が「ちよみは処女じゃないといやだ」と言い出したのが一因だった。

 このとき、TBSとのあいだでも最初のドラマ化の話が進行していたが、その局からは「うちだけに使わせろ」みたいな話になってきて、しかしそこまで言ってきておきながら作品に対する話はまったく出なかった。内田としては、《TBSのほうはその辺はすごく愛情を持ってくれていたんだけれど、でも好きでやってくれるんだったら両方受ければいいか、と思ってた》が、一方の局にはどうしても作品への手応えが感じられず、最終的に断ったという(『ガロ』前掲号)。

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内田春菊さん ©文藝春秋

逆に男のほうが小さくなったら?

 小さくなった女の子を男の子が面倒を見るという設定のまま、過去に4度ドラマ化されてきた『南くんの恋人』だが、今回の『南くんが恋人!?』では先述のとおり男女の立場を逆転して、旧作を知る世代を驚かせた。ただし、この設定は、このドラマのもうひとつの原案である『南くんは恋人』で、内田春菊自ら『南くんの恋人』をリメイクする際に導入したものである。同作は集英社の少女マンガ誌『Cocohana』で2012年に連載され、翌年に単行本が同社より刊行された(現在はぶんか社より電子書籍版が出ている)。

 じつは、「もし小さくなるのが女ではなく男のほうだったら?」とは、それ以前より『南くんの恋人』がドラマ化されるたび関係者が想像してきたことだ。『南くんの恋人』を1994年と2004年の2度、連続ドラマ化したテレビ朝日のプロデューサーの高橋浩太郎は、《もし男の南くんが小さくなったのなら何とかして元の大きさに戻ろうと、もっとずっとじたばたしてしまう気もする。ちよみの場合、南くんと一緒にいられるのなら、小さいままでも構わないって思っている節があるが、これって女ならではの順応性? あるいは願望? なのかも知れない》と書いている(「解説」、『南くんの恋人』文春文庫、1998年所収)。