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「もし自分が小さくなったら?」女性は前向きだが…

 2004年のドラマ化で脚本を担当した中園ミホも、「もし、自分が10分の1サイズになってしまったら、どうするか?」と、ドラマを書き始める前に周囲の人たちに訊いてみたという。すると女性からは「彼の部屋にこっそり潜伏して、ひとりでいるときに何をしているか見たい」「ペットのように世話を焼かれたい」「わがままをいっぱい言って彼を困らせたい」「旦那が自分をどれだけ真剣に探してくれるか見てみたい」など、ハッピーで前向きな意見が圧倒的だった。これに対し男性の答えは「すぐ死にたい」「精神安定剤を山盛り飲むと思う」「そのまま放置して自然死させてほしい」「引きこもりになる」など、どれも悲壮感が漂っていたという。

2004年放送の『南くんの恋人』。ちよみ役は深田恭子、南くんを二宮和也が演じた(TELASAより)

 中園はさらに男友達のひとりに話を訊くうち、男性が小さくなりたくない理由の核心は「愛し合っている相手とセックスができないこと」にあるのだと気づく。そこで改めて取材し、《愛する人と365日、24時間、いつも一緒にいられて、相手の行動をすべて監視できて、衣食住の世話を焼いてもらえて、お風呂にも入れてもらえる。ただし、セックスはできない。その状況を受け入れられるかどうか?》との質問を人々に投げかけたところ、《女は前向きに「YES♡」/男は死んでも「NO!」》というわかりやすい結果が出た。

 ここから中園は、《つまり、このドラマは女の子が小さくなる話だから成立しているが、男をポッケに入れる『南ちゃんの恋人』だったら、悲惨なコメディにしかならないということ。私はそっちもちょっと見てみたいんだけどな》と、この一件を紹介したエッセイを結んでいる(『25ans』2004年10月号)。

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男女逆転版の『南くんは恋人』(ぶんか社)

南くんを小さくしてみたら…

 原作者の内田もまた、《昔は自分の家を捨てて嫁いだ先の嫁にならないといけなかったし、女は順応性が高い》のに対し、《男の子はそうではない。身一つで海外に行って働いて来た男がやたら褒められるのは、一般的に男は順応性に欠け、海外が苦手だからではないでしょうか》と書く(「あとがき」、『南くんは恋人』ぶんか社・電子書籍版、2015年所収。この文章自体は2013年に執筆)。それだけに、いざ自らの手で南くんを小さくしてみたら、旧作のちよみが《たまに悩むけど、だいたい能天気に小さい自分を楽しんでいた》ようには行かず、とても困ったという(同上)。たしかに作中の彼は、小さくなった自分をちっとも受け入れようとせず、しょっちゅうわがままを言い、ちよみが自分以外の男とちょっと仲良さそうに見えただけで嫉妬するし、挙げ句の果てに「ちよみはオレのこと小さいからってバカにしてる」とふてくされるのが常であった。

今回のドラマでは南くんとおなじ手のひらサイズの女性(富田早苗:国仲涼子)も登場(『南くんが恋人!?』公式インスタグラムより)

 それとくらべると、今回のドラマで八木勇征が演じる南くんは順応性が高いのか、ちよみに対してかなり従順で、やや物足りなさを覚えないでもない。今後、彼が自分の境遇に不満を爆発させ、ちよみを困らせるという展開もあるのだろうか?