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 それからの彼の行動は、大阪地裁で開かれた一審での判決文に詳しい。

〈被告人(山地)は、ベランダに出て、たばこを吸った後、奥の部屋に戻り、被害者姉(明日香さん)、被害者妹(千妃路さん)の順に、逆手に持ったナイフを胸部目掛けて体重をかけて突き刺し、各被害者を絶命させた。その後、被告人は、ライターで部屋のカーペットに火を付け、室内にあった現金等をポケットに入れて持ち去り、玄関ドアの鍵を閉めて同室を出た〉

その犯行内容は酸鼻を極めるものだった(写真はイメージ) ©Tomoharu_photography/イメージマート

 室内から煙が出たことで午前3時過ぎに火災報知機が作動し、消防車が駆けつけた。消防隊員が室内に入ると、明らかに刺し殺された姉妹の遺体があったため、すぐに警察に通報。殺人事件としての捜査が始まった。

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 捜査にあたった大阪府警は、時間を置かずに山地が事件に関わった疑いが強いことを突き止めている。というのも、室内に残されていた指紋と掌紋が、同年3月に岡山県内で逮捕された彼のものと同一であることが判明したからだ。

 じつはその時点で、山地はパチンコの不正操作を行う“ゴト師”集団Aの一員だった。福岡県に本拠を置くAが、岡山県瀬戸町のパチンコ店に遠征していた際、山地だけが窃盗未遂容疑で逮捕され(後に起訴猶予処分)、そこで指紋などを採取されていたのである。

 岡山県警から釈放された山地は、共犯者についての供述を一切しなかったことから、ふたたびAに迎え入れられ、大阪市で事件を起こす直前まで、同市内に遠征中だった。その際にAのメンバーが根城としていたのが、被害者の姉妹が住んでいたマンションの6階であったことから、山地が被害者をあらかじめ知って狙ったものと見られている。

犯行直後の意外な行動

 犯行直後の山地は、コインランドリーで血まみれの服を洗い、現場から200mほどしか離れていない公園で寝ていた。さらに彼曰く、「地元の新聞でいちばん詳しい捜査情報を知る」必要があるとして、大阪を離れることはなかった。

 捜査員が山地の身柄を確保したのは、犯行現場から500mほどしか離れていない、大阪市浪速区内でのこと。12月4日の深夜、閉店間際の銭湯を出て、100円ショップに立ち寄った彼を捜査員数人が囲う。自分の名前を告げられた山地は、「完全黙秘します」と返した。しかしそれから抵抗することはなく、犯行現場のマンションに隣接するビルへの建造物侵入容疑で逮捕された。

現場マンションに入る捜査員  ⓒ時事通信社

 事件当日、山地は現場マンションに侵入するため、隣のビルの配管をよじ登っており、彼の指紋が残されていたのだ。もちろん、逮捕の主目的が建造物侵入でないことは明らかだったが、捜査員から逮捕容疑を告げられた際の山地は、「その件でしたか」と安堵の表情を見せていたという。

 逮捕時の山地は、新しいリュックサックの中に漫画本と洗濯した衣類を入れていたが、それ以外にも、被害者の姉から奪った小銭入れやジッポライターなどを所持していた。取り調べでは黙秘を続けていた彼だが、その入手経緯についての追及を受け、逮捕から13日目の12月18日に姉妹を殺害したことを認めた。そして翌19日に、姉妹への殺人容疑で再逮捕されたのだった。