大便は1日1回、逆らえば電気ショック、地獄のような生活を強制し続けられた被害者家族は……。凶悪事件「北九州監禁殺人事件」でなぜ被害者家族は、お互いに虐待・虐殺しなければならなかったのか? 主犯・松永太の残虐手口を新刊『世界の殺人カップル』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
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一家6人が完全にこの世から消えてしまった
やがて、妹夫婦の娘(同10歳)と息子(同5歳)を人質代わりにマンションに呼び寄せ、緒方、A子さんを含む9人での共同生活を開始。松永は彼らに序列を与え、序列が下の者は上の者に通電などの罰が施されるよう定めたため、全員が上の地位を得ようと死にもの狂いとなる。松永のことを批判した者への密告も頻繁に行われ、家族は互いに疑心暗鬼に。もっとも、ほどなく松永が室内に盗聴器を設置したことをほのめかしたため、彼のことを悪く言う者は誰もいなくなったそうだ。
松永の支配は徹底していた。真冬でも半袖の服を着用させ、部屋を移動する際には匍匐前進を強要。小便はペットボトルや浴室で行わせ、大便は1日1回と制限、食事の際には蹲踞(そんきょ)の姿勢を崩さないことを命じた。
それに逆らえば、家族間での通電の虐待が待っていたことから、家族はまさに松永の奴隷そのものだった。
そんな地獄のような暮らしが半年ほど経過した1997年12月、緒方の父親が通電を受けている最中に死亡する。遺体は緒方と母親、妹夫婦、彼らの娘の5人が処理した。翌1998年1月には、松永が母親に通電を続けたところ、精神に変調をきたして奇声を上げるように。そこで、松永に指示されて妹が母親の足を押さえつけ、妹の夫が電気コードで首を絞めて殺害。緒方と妹夫婦、その娘の4人が遺体を解体した。続けて2月には妹の様子がおかしくなり、彼女の娘が足を押さえ、夫が電気コードで首を絞めて殺害。4月になると妹の夫が食事制限のうえ、通電を繰り返されて衰弱。松永が眠気覚まし剤とビールを飲ませ死に至らしめた。
殺人の歯車は止まらない。松永は、大人になったら復讐されるかもしれないと、妹の息子の殺害を指示。緒方と妹の娘が電気コードで絞殺し、A子さんが足を押さえていた。その後は妹の娘への虐待が加速し、彼女が2歳児用おむつが履けるほどやせ細ると、松永は家族のところに行こうと説得。6月、彼女は自ら弟が殺害された場所に横たわり目を閉じたという。その首に緒方とA子さんが電気コードで首を絞めて殺害。こうして緒方一家の6人が完全にこの世から消えてしまった。