韓流ブームの原点と言われる映画「シュリ」。1999年に公開され日本でも興行収入18億円を超える大ヒットを記録した。
長らく配信などでは見られない時期が続いていた「シュリ」だが、ついにデジタルリマスター版での再上映が決定。カン・ジェギュ監督に製作秘話や、日韓の映画文化の違い、そしてアニメ人気について語ってもらった
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――韓国で社会現象を巻き起こし、日本での韓流ブームのスタートにもなった『シュリ』(1999年)が、25年を経てデジタル・リマスター版で復活した経緯をお聞かせください。
カン・ジェギュ監督(以下 カン監督) 実は私は以前から『シュリ』をリマスター版で復活させたいと思っていました。3年前に韓国映像資料院から連絡があり「韓国を代表する作品のリマスタリング作業を進めている中で、シュリもぜひ加えたい」と言われました。それで喜んでお受けすることにしたんです。
――リマスターにあたって監督からはどんな要望を出されたのですか。
カン監督 一緒に作業してくれたエンジニアの方に私からお伝えしたのは「基本的に原盤に忠実に、フィルムの質感・雰囲気をそのまま生かしたい」ということです。エンジニアの方も、『シュリ』の原盤のライティングが非常に完成度が高いと言ってくれて、色など細かく手を加えずに映画の質感を生かしましょう、と。
「韓国は政治的な色合いを持つ作品に対する観客の関心が高い」
――当時はできなかったけれど、最新技術によって可能になった点もあるのでしょうか。
カン監督 むしろ、できるだけ当時の雰囲気を再現することが大事だと思っていました。最新技術でどこかを変えようとすると、一部ではなく全体的にアップグレードすることになるのですが、『シュリ』についてはその必要を感じなかったんです。
――『シュリ』はアクションあり、サスペンスあり、恋愛ありで、北朝鮮との南北問題をストレートに描く政治的色合いが強い作品でもあります。それが当時韓国で621万人動員という記録的ヒットになったわけですが、朝鮮戦争を扱った『ブラザーフッド』やソン・ガンホさん主演で光州事件を舞台にした『タクシー運転手』など、韓国ではなぜ実写の政治モノ映画がこんなに人気なんでしょうか。
カン監督 おっしゃる通り、韓国は政治的な色合いを持つ作品に対する観客の関心が高い傾向はありますね。最近ですと実際に起きた韓国大統領暗殺がテーマの『ソウルの春』(2023年)も大ヒットしています。
日本と違うのは、韓国は戦後に軍事独裁政権の時代があり、民主化が実現してからまだ40年も経っていません。政治が複雑に移り変わる中で、政治が自分自身を支配したり自分に影響を与える身近なものだという感覚が韓国では強いですね。