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客と娼館のために性病検査を受け「馬のような」扱いをされた

娼館が、娼婦に毎回の洗浄を求めたのは、週に1度、医師によって行われる性病検診に引っかからないようにするためだった。娼婦はひとり1冊、日記帳のような帳面を渡され、月経周期やいつ客を取ったかなどを細かく記録させられた。医師は検診で問題がない場合はそれにサインし、客も安全であることの証明として帳面を見せるよう求めていた。

〈1週間にいっぺん、検査ですけん。な、そして、ちょうどこう、日記帳みたいなっとば、1人ひとりに渡してあっとです。医者が1週間にいっぺん検査すっとに必要の帳面がね。ちょうど日記帳、こまんかブックが1丁渡してあっとですよ。それ〔帳面〕がものをいうとですたい、女郎にはな。客が威張って出せって言う。〔帳面を見て〕「はい」って言うてから、オーライって言うてから、……馬んことやらす〉

前掲『阿姑とからゆきさん』によると、性病検診は、軍人や船乗り、クーリー〔“苦力”中国人労働者〕らが性病にかかり、蔓延することを防ぐことが目的だった。性病が蔓延すれば軍人や労働者は働けなくなるため、軍や社会が機能不全に陥る恐れがあるからだ。このため性病は検診によって厳重に管理され、娼婦が性病にかかっているとわかると、娼館が営業停止になるなどペナルティを受けたとされる。

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検査の負担やペナルティなど、犠牲を強いられるのは常に女性の側だった。

【参考記事】毎日新聞 「1日で49人の相手を…」 過酷な労働、波乱の人生赤裸々に 「からゆきさん」肉声テープ発見

※後編に続く

牧野 宏美(まきの・ひろみ)
毎日新聞記者
2001年、毎日新聞に入社。広島支局、社会部などを経て現在はデジタル編集本部デジタル報道部長。広島支局時代から、原爆被爆者の方たちからの証言など太平洋戦争に関する取材を続けるほか、社会部では事件や裁判の取材にも携わった。毎日新聞取材班としての共著に『SNS暴力 なぜ人は匿名の刃をふるうのか』(2020年、毎日新聞出版)がある。