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 細長い棒のようなもの。全体的に青白いが、ところどころ青黒い部分があったりする。これはなんだろう……と目を凝らしてよく見てみると、細長いモノの先端に5本の指がついている。なんとそれは人間の腕だったのだ。

 そこで子どもは初めて、これが人間の遺体だということに気がつき、大慌てで大人に知らせにいった。

下駄華緒さんの著書『最期の火を灯す者 火葬場で働く僕の日常(3)』でも描かれた「桐生火葬場事件」 ©竹書房

元火葬場職員による大規模遺棄

 通報を受けた警察らが調べると、ごみ捨て場にあった遺体はふたりぶん。身長5尺3寸(約160センチ)ほどの40歳くらいの男性と、それよりも少し小さいくらいの40歳くらいの女性であることがわかった。犬が引きずりだした腕は、女性のほうの腕だった。

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 どちらの遺体も衣服はなく全裸。下半身は焼かれたのか生焼けの状態であり、上半身の胴体部分には黄色い斑点があった。

 ごみ捨て場の状況を詳しく検分していくと、どうやらごみ捨て場で何かの事件が起きたわけではなく、ほかの場所から運んできてここに遺棄されたこともわかった。

「半年くらい前にこの火葬場でおもに働いていたのは誰かね」

 生焼けの状態や腐乱の進行具合から死後半年ほど経っていると推定した警察は、当時の職員が怪しいとにらみ、現在の職員に尋ねた。すると、

「M井です。あの飲んだくれで有名なM井勘次郎です」

 そう職員が答えた。このM井という人物は近所では素行が悪くて有名で、市民から「乱暴勘」「飲んだくれの勘」などと影口を叩かれるほどに嫌われている男だった。

 あのM井が殺人を働いたのか。だがそれもふだんの素行から考えれば納得がいく話である。警察はM井の家へ押しかけてすぐさま署に連行した。

写真はイメージ ©weapons_photograph/イメージマート

 当初は「俺は何も知りませんよ」などと関与を否定しながら黙秘していたM井だったが、取り調べに根負けしたのか、翌日には自分の犯行を自供した。

 M井はいったん火葬に伏した遺体を半焼けのうちに火葬炉から引きだしてここに死体を遺棄したという。ごみ捨て場から見つかったふたりの遺体は、その所業の成れの果てだったのである。

 その目的について、M井は相変わらず黙秘していたが、遺体の金歯や指輪など貴金属類を盗むことが目的だったと見られている。

 火葬中に引きだして用済みになったらポイとはひどい話だが、ここまでならただの一事件で片づけられていただろう。

 しかしこのM井は、火葬場で17年間も働いてきたベテラン職員だった。つまり彼はそのあいだもずっと犯行を続けてきていたのだ。その数は想像すらできなかった。