故人のご遺体を火葬し、その人生を締めくくる場所「火葬場」。今でこそクリーンな運営をしている場所が多いが、かつては火葬場で陰惨な事件が起きていたこともある。
1933年に起きた「桐生火葬場事件」もそのひとつだ。群馬県桐生市で火葬場職員が、火葬場に運ばれてきた遺体から脳漿(脳のまわりを満たしている液)を盗み、高額で売りさばいていたとして、当時、日本中で話題になった。
「桐生火葬場事件」以外にも、日本各地で同様の事件が起こっていたという。いったい、どんな事件だったのか——。ここでは、元火葬場職員・下駄華緒氏が、火葬場で起きた事件を徹底調査してまとめた書籍『火葬場事件簿 一級火葬技士が語る忘れ去られた黒歴史』(竹書房)より一部を抜粋して紹介する。(全2回の1回目/2回目に続く)
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「火葬場職員が脳しょうを盗む」事件が次々と発覚
桐生火葬場事件は世間を大いに震撼させたが、それと時を同じくして、ほかの火葬場で同様の事件が起きたことが次々に発覚している。
現在の埼玉県越谷市一帯では、もともと火葬場職員が脳しょうを取っているという噂が流れていたらしい。
はじめはそんな話は怪聞だとあまり取りあわなかったようだが、桐生火葬場事件を受けて、職員が脳しょうを取ることがにわかに現実味を帯びてきた。
そこで越谷署が昭和8年(1933)11月、怪しいと地元で噂が立っていた44歳の火葬場職員を検挙し取り調べたところ、クロだと発覚した。
この人物は、人間の脳しょうが肺病の薬になるから取ってきてほしいと、とある人物から依頼を受けた。
そこで一度は火葬をはじめたところで中断し、半焼けになった遺体をこっそり竈(かまど)から引き出して脳しょうを摘出。それを持ち去って依頼者に渡していた。
その代わりに謝礼を受け取っていたらしい。取り調べの結果、どうやら昭和6年(1931)以来、数回にわたって脳しょう盗みを働いていたとのことだった。