濱口 まあそういうきっかけで知り合い、卒業制作でもないんですが『何食わぬ顔』という大学在学中の2002年に撮った作品で、千葉くんに音楽をやってもらったりとかしました。卒業後も、20代後半は千葉くんの友達とルームシェアしてたので、付き合いが続いていた。千葉くんの印象は、率直に言えば結構ずっと怖かったですね。高校時代の友達と喋るノリやスピードが速過ぎて。格別アカデミックな会話をしているわけではなくて、ユーモアのある会話をしてるわけなんだけど、全然付いていけなかった。しかも自分がなんか言ったら、ちょっと止まったりするし(笑)。
千葉 ちなみに僕の出身は宇都宮高校でして、略して宇高と言うんですが、濱口監督はその同級生たちと一時期ルームシェアをしていた。だからこっちに引き付けると、実は濱口監督も宇高文化圏の一部という。
濱口 本当に、千葉くんを見上げるようにして見ていた。だから今、千葉くんがこうなっていて、単純にすごい人だったんだ、と安心してるんです。大学とかで同年代のすごい人に打ちのめされている人は安心してください。そういう人はただのすごい人である可能性が高い(笑)。
千葉 そう言ってる濱口監督が、アカデミー賞受賞者であるわけですよ。
濱口 そういうパターンもある。私は鋭いところのない人間ですけど、そういうこともあるので、諦めずにやっていきましょう。
『勉強の哲学』のわかりやすさの衝撃
濱口 それで、『センスの哲学』の話に入っていく前に、同じ編集者と作ったという『勉強の哲学』の話から少し。そういう印象もあったので読んだときに「千葉くんがこんなに分かりやすく書いてくれている!」という衝撃がありました。こういうものを知っておかなくてはいけませんよ、ということを、砕いて、順序立てて、読者に向けて書いてくれている。これは『現代思想入門』とかにも言えることなんですけど、読んでいてメモを取ろうとしたら、すでに次の行でまとめてくれている、という感覚。『動きすぎてはいけない』は正直言えば途中で挫折をしてしまったんだけれども、『勉強の哲学』『現代思想入門』『センスの哲学』を読んだ今だったら、すらすら読めるかもしれない。
千葉 ありがとうございます。『勉強の哲学』は大きな転機になったもので、あのときに、自分が考えていることを率直に書こうという仕事の仕方に変わったんです。それで『センスの哲学』では、特に芸術、自分のベースにある美術を中心に、芸術全般を論じることになりました。美術、音楽、そして映画もちょくちょく出てきますね。あと、食べること。そのあたりを総合的に、率直に書きました。生活の中で感じる美的感覚を、どういうふうに捉えてもらうか。それが狙いだったわけです。