政治家の世襲がよく議題になる。政治は私物ではないからだ。では政治家の一族が地元メディアを経営していたらどうだろう? 新聞でその政治家を絶賛していたら?
一族にとって都合の良いニュースは大々的に、都合の悪いニュースは報じないという「報道」をしていたら? 北朝鮮じゃあるまいしと笑うかもしれないが、これから書くことは日本の話である。
先日、自民党広報本部長の平井卓也氏が総裁選のポスターとウェブ動画「THE MATCH(ザ・マッチ)」を発表した。平井氏は香川1区(比例四国ブロック)選出の衆院議員だ。父と祖父は参議院議員で、どちらも地元紙「四国新聞」の社長を務めていた。
現在の四国新聞の社主は平井氏の母であり、社長は弟である。一族はテレビ局の西日本放送を経営し、平井卓也氏は29歳から41歳まで社長を務めていた。香川県では政治家一族が地元の新聞とテレビを持っている。
そうなると政治報道はむしろ公平さに気を配ると思うのだが、四国新聞は平井推しを隠さない。忘れられないのは平井氏が初代デジタル大臣に就任した翌日の四国新聞である(2020年)。
一面にデカデカと「初代デジタル相 平井卓也氏に聞く」とぶち上げ、平井氏が笑顔でインタビューに答えている。「国民目線で改革」「透明、公正、迅速に」という見出し。まるで国民の祝日のような紙面づくり。
就任1カ月を報じる紙面では「政策推進 急ピッチ」とまたも絶賛で、隣りのページには平井氏の大臣就任を祝う地元企業の広告をずらりと並べていた。驚いた。これは本当に「新聞」なのか? 一族の私物化ではないか?
驚愕の紙面はさらに続く。平井氏が大臣就任後に「初めて帰郷」したことを伝える紙面だ。「祖父、父の墓前で意気込み」との見出しで、社会面にこれでもかと大きく載せていた。
既視感があるなと思ったら、金正恩、金正日、金日成ファミリーのエピソードを伝える「地元報道」だ。四国新聞、負けていない。
ところが平井氏はデジタル大臣を1年で退任してしまう。四国新聞しか読んでいない人は不思議に思っただろう。実はその1年のあいだ四国新聞以外ではデジタル庁と平井氏の不祥事が大きく報道されていたのだ。少し挙げてみよう。