みなさまのお悩みに、脳科学者の中野信子さんがお答えする連載「あなたのお悩み、脳が解決できるかも?」。今回は、「「キャーッ」が言えません」という難題に、中野さんが脳科学の観点から回答します。(全3回の2回目。#1#3を読む)

中野信子さん ©文藝春秋

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Q 「キャーッ」が言えません──30歳女性・中学校教諭からの相談

――私の悩みは悲鳴を上げられないことです。私は現在、中学校で音楽を教えています。先日、音楽室のピアノの鍵盤蓋を開けるとカマキリがいました。生徒たちが私を驚かそうとしたのです。ハッと息をのんだのに、周りの人の目には私が平然としているようにしか映らないようです。だから生徒たちはガックリしていました。生徒たちは何とか私にキャーッと言わせたくて、急に物陰から現れたり背後から押したりしますが、いつも私がスンッとしているので、そろそろ私を構うのをやめてしまうのではないかと思うと寂しいです。

 そもそも物心ついた時から悲鳴を上げた記憶がありません。お化け屋敷でも、電車で痴漢に遭ったときも声が出なかったです。これでは危険な目に遭っても人に伝えられません。私のようなSOSを発信する能力がない人間は生き延びることができないのではないか、いずれ淘汰されてしまうのではないかと心配です。

 私も「キャーッ」が言えないタイプです。ピアノにカマキリがいたら、愛らしいなと思う方かもしれません(理系あるある)。

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 あなたは音楽教師でいらっしゃいますから、人間の声帯について解剖学的な勉強もされて、私たちはどのように発声するか、よくご存じだと思います。読者の皆さんのためにざっくり説明しますと、喉の奥の気管の入り口辺りに左右から突き出た1対のヒダがある。

 これが声帯です。声帯は呼吸をする際は開き、声を出す際は閉じて、そのすき間を空気が通ると声帯が震えて音が出る。声帯の閉じ方で振動数が変えられるので、いろいろな高さの音を出すことができます。この音を口腔内で共鳴させて、私たちは発声しているのです。