みなさまのお悩みに、脳科学者の中野信子さんがお答えする連載「あなたのお悩み、脳が解決できるかも?」。今回は、「多様な価値を認める寛容な大人を演じていたつもりが、実は収拾がつかなくなった“混とん”を次の世代に残しただけなのではないか」という難題に、中野さんが脳科学の観点から回答します。(全3回の3回目。#1#2を読む)

中野信子さん ©文藝春秋

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Q 多様な価値を認める寛容な大人を演じていたつもりが、実は収拾がつかなくなった“混とん”を次の世代に残しただけなのではないか──56歳・武田真一(フリーアナウンサー)からの相談

――突然ですが、私、いまや世界で活躍するアーティスト「新しい学校のリーダーズ」を絶賛推し活中であります。

「個性と自由ではみ出していく!」というのが彼女たちのキャッチフレーズなのですが、その言葉を初めて聞いたときに頭をぶん殴られたような衝撃を受け、いつしか深い感動の涙を流していたのです。現代の若者たちは、存分に個性を表現し、自由に生きていい。既存の価値観をはみ出して、誰もがそれぞれの価値観でリーダーになれる新しい時代が、ようやく拓かれたのだ。うらやましい! なんとかっこいい!!

 しかし、彼女たちの歌を聴くうちに、ことはそう単純ではないことに気づきました。

〈一体、個性ってなんだろな? 怒らないから言ってみて 知ったか振った あなたは黙っといて〉(『迷えば尊し』作詞:新しい学校のリーダー達)

 武道館のステージの中央で、メインボーカルのSUZUKAさんが叫んだのです。「人間、自分らしく生きるってそう簡単じゃないの!!」

 そう。ついに若者が個性と自由ではみ出していける時代が来たと喜ばしく思っていた私は、なんと知ったか振っていたことか。多様性と包摂という言葉は、人と違う自分らしさをアピールできる人以外はだれからも認めてもらえないかも……という恐怖と裏返しだったのです。

 私たち世代は、多様な価値を認める寛容な大人を演じつつ、どう生きるべきか、この社会をどういうものとして残していくのか、思考や価値を野放図に拡散させ収拾がつかなくなった混とんを若者にただ残してしまったのではないかと悩んでいます。どうお考えになりますか? 私たち大人は、若者の悲痛な叫びにどう応えるべきでしょうか?

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 社会の最新事情を捉えつつ、構造的なひずみについて言及される武田さんのワザを見せていただいたようなご質問で、さすがだなと勉強になりました。長いキャリアをメディアの第一線で活躍されてきた人の凄みを感じます。そのような方にご相談をいただけるなんて本当に光栄です。