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 少子化は加速度的に進み、ネズミたちは超高齢化社会を迎えます。そこで辛うじて生まれた若いネズミたちは、もはや他個体にはまったく関心を持たず、交尾などは仕方を忘れてしまったかのように異性に対しても何もしない。関心があるのは自分のことだけ。ひたすら毛繕いをして、つやつやに輝く毛並みの美しい個体が増えていきます。そして、子どもの生まれないこの集団は滅亡します。この実験は再現性も確かめられています。

 これはあくまでもネズミの実験ですが、少子化、超高齢化社会、異性に関心を持たず自分の身繕いにだけ時間とコストをかける個体が増えていく現象など、人類もとても他人事と思っていられるような内容ではないのではないかと背筋に冷たいものが走ります。

混とんは福音である可能性もある

 私たちがユートピアだと思っているものはユートピアとは限らないかもしれない。混とんがなければ我々は健全ではいられないかもしれない。そういうことをこの実験結果が示唆しているのだとしたら……。「次世代に混とんを残してしまった」と武田さんは葛藤しておいでですが、むしろその混とんは福音である可能性もある、ということになりはしないでしょうか。

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 また、武田さんのような方が次世代に対する責任を重く考えていらっしゃる姿をこうして発信されること自体が、素敵なことのように思うのです。私も武田さんに倣い、次世代に向けて自分のできることを淡々と積み重ねてまいりたいと身が引き締まりました。

なかののぶこ/1975年東京都生まれ。脳科学者。東日本国際大学特任教授。京都芸術大学客員教授。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。医学博士。2008年から10年まで、フランス国立研究所ニューロスピン(高磁場MRI研究センター)に勤務。著書に『ペルソナ』『脳から見るミュージアム』(ともに講談社現代新書)、内田也哉子との共著『なんで家族を続けるの?』(文春新書)など。最新刊は『新版 人は、なぜ他人を許せないのか?』(アスコム文庫)。

text:Atsuko Komine