1ページ目から読む
4/5ページ目

世界の描写が甘くなってしまったワケ

 要因はレトロゲームだった原作「聖剣伝説」の世界を安易に受け継いでいるからだろう。

『聖剣伝説 ヴィジョンズ オブ マナ』画像はSteamより

 もともと「聖剣伝説」シリーズは、“ドット絵のデフォルメされた表現”で、炎・氷・光・闇などをテーマにしたさまざまな地域を冒険するのが楽しまれたゲームである。ただ、グラフィックの解像度が上がってくると、途端に統一感も説得力もない世界になってしまうのだ。

 そして、隣接するストーリーも危険である。

ADVERTISEMENT

 本作の世界には、魂を捧げることで世界に安寧をもたらす「御子」という存在がいる。御子のひとりがヒロインで、彼女を守る役割を担うのが主人公。つまり、いずれ起こる別れが予想される悲劇なわけだ。

 この設定自体はなんら問題ない。しかし、大きな問題は、ふたりが最初から“ラブラブ”な点だ。

『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』画像はスクウェア・エニックス公式サイトより

 悲劇をうまく描いた日本のRPGとして『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』がある。このゲームは主人公の幼少期からじっくりと時間をかけて物語を描き、父であるパパスとの別れ、そして再会する幼馴染、さらには子供が生まれたあとに起こる衝撃的な展開など、一本のストーリーを丹念に描いている。だからこそキャラクターが迎える悲劇にプレイヤーは心を動かされる。

 もし、いきなり父親との別れがあったり、流れも何もなく「ビアンカかフローラかを選べ」と言われても、プレイヤーは困惑するだけだろう。

 そして、まさしく『聖剣V』のストーリーがそれなのだ。

 主人公とヒロインは最初から仲良しで、お互いの何をどう好いているのかわからないし、過去のエピソードもほとんど明かされない。なのに急に悲劇がはじまる。感情移入もクソもなく、悲劇が成り立っていない。むしろ、ヒロインとの別れに清々とする人がいるかもしれないほどの説得力のなさなのだ。

 おまけに、ほかの登場キャラクターも恋愛劇を完全に端折って描写されるうえ、それを巡って争いが起こる。一連の展開は他人の痴話喧嘩を見ているようなものだ。しかも結局のところ、『聖剣V』のストーリーは「愛はすごい力を生む」という24時間テレビよりも抽象的なことしか言わないのである。