オープンワールド化に失敗
先にビジュアルやゲームシステムを長所として取り上げた。
『聖剣V』の世界のビジュアルは確かに美しい。しかし、中盤以降は同じ場所に戻ることが多く、使い回しがかなり目立つ。プレイ時間を確保するためか展開も単調で、イベント→ダンジョン→ボスの流れを繰り返すうえ、ダンジョンがどんどん長くなるのだ。
バトルシステムと探索もそのうち息切れする。バトルは弱点属性を突くだけで、クラスチェンジはほぼ属性を変えるだけ。探索も、大して要素が増えない。
こうなると中盤から盛り上がるストーリー、ストーリーを支える世界設定が見どころになる。そして、それらの要素は聖剣伝説という歴史あるシリーズにおける最も重要なポイントなのだ。だが、ここに大きな問題がある。
“そもそも”の問題点
そもそもオープンワールドRPGは、広大な世界を冒険するシステム。すなわち「どのような世界を見せてくれるか」がゲームの出来を左右する重要な要素になる。世界をきちんと描かなければ、広大な世界が魅力にはならない。
明確に失敗した代表例が、Nintendo Switch『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』である。
このオープンワールド化されたゲームでは、まばらなポケモンと棒立ちのポケモントレーナーが点在するばかりである。世界のほとんどがポケモンに占拠されているような状況で、「この世界の人たちはどう生活を成り立たせているのか」と疑問に思えてくる。
そもそもポケモンは特に深い世界設定があるわけでもなく、それまでのシリーズも非常にシンプルなRPGだった。ゆえにオープンワールドを持ち込むと、世界設定の薄っぺらさが表に出てしまうのである。
おまけにこのゲーム、オープンワールドになったのに、ストーリー進行は実質的に一本道であり、自由に移動できることにほとんど価値がなかった。ゆえにオープンワールドRPGとしてまったく評価できないのである。
逆に成功した例としては、『ファイナルファンタジーVII リバース』が挙げられるだろう。
リメイク版『ファイナルファンタジーVII』の第二作である本作は、原作のワールドマップをセミオープンワールド化しており、世界各地の設定がきちんと掘り下げられている。
しかも、このゲームではセミオープンワールド部分はあくまでおまけに過ぎない。本筋のストーリーがメインディッシュであり、セミオープンワールドはあくまでやりこみ要素として機能させているという贅沢すぎる作り方なのである。
世界を広くして探索できるようにしたとしても、その世界そのものが魅力を持っていなければ地域を巡る必要がなくなる。要はオープンワールドにした意味がなくなるわけだ。
『聖剣V』は、まさにそういう状況に陥っている。
さらに困ったことに、『聖剣V』はストーリーもヤバい。「他人の痴話喧嘩」を見ているようとしか言えない展開が繰り広げられていくのだ……。
経緯が描かれず、他人の痴話喧嘩を見ているようなラブストーリー
筆者が『聖剣V』を遊んで最初に失望したのが、主人公の住む村である。
村には火の精霊の加護があり、近くに火山が存在する。なので、火のついた果物があり、日中でもあちこちに篝火がたかれ、村民は鍛冶をしている。あまりにも安直すぎる設定に頭を抱えた。
一応、世界観の設定がないわけではないのだろう。村の住人が火山の危険性を感じていないだとか、火山灰のおかげなのかたくさんの穀物を育てている描写はある。だが、それでもこのゲームは世界設定が雑である。極寒の地域でも半袖の人がふつうにいる。それくらいにはこだわりが感じられない(あるいは、整えるための予算が足りていない可能性がある)。
なぜこのような仕上がりになってしまったのか。