通常、医療ドラマというのは多少の誇張や脚色こみでフィクションとして許されているような所がある。

 天才外科医がメスを振るって神のように患者を救ったり、聞いたこともない病名で余命数ヶ月を宣告された恋人が、さっき思いついたような新薬で奇跡の回復をとげても、観客はいちいち目くじらを立てたりはしない。もちろん医療関係者はやれやれとため息をついているのだろうが、それは小説からドラマまで、エンタメ界の長年の「お約束」みたいなところがある。

 だが、精神医療だけは別だ。長い差別の歴史を持ち、そしてロボトミー手術など苦い失敗の教訓を持つ精神科には、他の医療ドラマのようにスーパードクターやハッピーエンドの安直な演出が許されない。数えきれないほど作られる医療ドラマの中で精神科を舞台にした作品の比率が少ないのは、それだけ商業エンターテイメントと両立するのが難しい題材だからだ。

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精神医療を描いた漫画作品がドラマに

第1話はAmazon Prime Videoで配信中

 集英社の漫画雑誌『グランドジャンプ』で2019年から連載され、エンタメ連載漫画の激しい競争を生き延びて累計110万部を超えるヒットとなった、原作・七海仁、漫画・月子による『Shrink ~精神科医ヨワイ~』は、その両立の困難に挑戦し、危ういバランスを取りながら商業的にも成功をおさめた作品と言えるだろう。

 パニック障害、うつ病、発達障害、PTSDなどさまざまな個別の病と患者にスポットを当てつつ、派手な演出を抑えてリアルかつヒューマンタッチで描く連載は現在13巻におよび、2021年には第5回さいとう・たかを賞を受賞している。

 原作者七海仁氏は、テキストサイトnoteにおいてドラマ化決定当時のことを振り返っている。

 “ドラマのお話をいただいたのは、約1年半前、2023年春のことでした。

 実を言うと、当時ほかからもオファーを頂いている状況でした。

 2019年に連載を開始し、精神医療という、とても繊細で複雑でだからこそ面白いテーマを追ってきて、「もっと多くの人に届いてほしい」「皆でもっと『心』の話が出来たら」と願いながらも、メディア化に関してはさまざまなハードルがあるだろうから難しいかな…とも思っていたので、お話を頂けただけでも本当にありがたかったです。

『Shrink~精神科医ヨワイ~』1巻(集英社、2020)

 多くの方がおっしゃってくださっているように、確かに「3話は短いなぁ」などとも思いはしました。ですが、NHKの方々がドラマ(&関連番組)の制作を通して精神医療に真剣に取り組みたいと思っていらっしゃること、制作陣の皆さんが時間をかけて丁寧に良質なコンテンツを作りたいと望んでいらっしゃることが伝わってきて、悩んだ末、NHKのプロデューサーさんに「どうか『Shrink』をよろしくお願いします」とメールを書きました。”(2024年8月31日 note「ドラマ『Shrink ~精神科医ヨワイ~』第1話」より)

 本来困難な題材に他からもメディアミックスの声がかかるという状況の中、あえて3話のみのNHKを選んだ理由について、原作者はNHKスタッフの誠実な姿勢をあげている。