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あまりの真面目さに大泉洋も「結婚祝いのメールが送れなかった」

『帰ってきた あぶない刑事』で共演した柴田恭兵や、『マッチング』のクライマックスで演技の火花を散らし合った斉藤由貴が、「この役が太鳳ちゃんでよかった」(柴田恭兵『あぶない刑事インタヴューズ「核心」』)「良い意味で驚きました」(斉藤由貴『マッチング』パンフレット)と、娘を見るように目を細めて土屋太鳳を賞賛するのは、無理にでも軽くふざけなくてはいけなかった彼らの世代にとって、照れずにひたむきになれる土屋太鳳の真剣さがまぶしく、また頼もしいからかもしれない。

 言うまでもなく土屋太鳳のような女優の本領は、『Shrink』のような社会的背景を持った、中途半端に演じることのできない作品でこそ発揮される。困難なテーマ、難しい題材であるほど、日本映画やドラマは土屋太鳳のような俳優を必要とする。その意味で『Shrink』に土屋太鳳を選んだNHK制作のキャスティングはさすがの目利きというか、ベストの選択と思える。

土屋太鳳が演じる看護師の雨宮有里 NHK公式サイトより

 しかし一方で、そうした土屋太鳳のあまりの真面目さに見ている方が心配になるのも事実だ。「太鳳フォント」とファンの間で呼ばれる、活字のように整えられた手書き文字。時間と体力を消費するであろうその手書き文字を土屋太鳳は被災地への寄せ書きはもちろん、あらゆるメッセージに書き記すのだ。

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『土曜スタジオパーク』のコメントで大泉洋が、土屋太鳳にメールすると、軽い内容でも真剣に書いた長文の返信が返ってくるので、負担をかけそうで結婚祝いのメールが送れなかった、あの5分の1の長さでいいんだよ、と笑っていたが、それは土屋太鳳を見るファン、周囲の人々の多くが感じていることなのだろう。そんなに一生懸命で、そんなに全力を続けて、本当に大丈夫なのか。それは『Shrink』のテーマともリンクする。

正反対の中村倫也との相性はぴったり?

 中村倫也と土屋太鳳の演技スタイルは正反対である。常に全力、持てるすべてを役に注ぎ込む土屋太鳳を剛とするなら、融通無碍、カメレオン俳優と呼ばれるほどに変幻自在な中村倫也は柔のスタイルだ。番組でのインタビューを見ていても、すべての質問にインタビュアーの目を見て真正面から答える土屋太鳳に対して、中村倫也は時にするりとジョークで身をかわす。彼の、どことなく武術の達人を思わせるような呼吸と間合いを読んだしなやかな身ごなしは、彼の演技の中にもエッセンスとして常に存在する。常に渾身の一撃の土屋太鳳に対して、中村倫也の演技には対象と距離を取るジャブとフットワークがある。

中村倫也 ©文藝春秋

 中村倫也の柔らかさの中心には、もちろん硬質な真剣さが存在する。本人も何度も語るように、不遇の若手時代に抱えた葛藤や、多くの本を読み考える知性は、最近でも石原さとみ主演の『ミッシング』、野木亜紀子脚本の『ラストマイル』での追い込まれた男の演技でみごとに発揮されていた。それはどこか、重い過去を持ちながらあえて軽く振る舞う『Shrink』の精神科医・弱井ともリンクする。

 NHKのニュースLIVEでインタビューを受け、「医師の役はたいへん。簡単にやりたいとか言っちゃダメです」と、演じるにあたり資料の本を読んで勉強をしたことを明かしながら「まずは知ることで適切な治療を受ける1ページ目になれば」と語る中村倫也は、原作が尊重してきたテーマの難しさ、重さをよく知りながらエンタメの軽さと両立できる、最適のキャストに思えた。

 俳優と役を単純に重ねてしまうのは、あまりにも安直すぎるかもしれない。『赤羽骨子のボディガード』で演じた異色の殺し屋役も好評を博し、野木亜紀子脚本の『海に眠るダイヤモンド』のトリプルヒロインの1人も決まっている土屋太鳳の俳優活動は今、絶好調と言ってもいい。

 しかし、「私もカメラの前で動悸が止まらなくなったり、セリフが出てこなくなったことがあった」と語る土屋太鳳が、次々とオファーが舞い込む大役をすべて「全力で」背負い込んでしまいはしないかと、1人の観客として不安に思う時もある。そんな時、この『Shrink』のストーリー、「がんばりすぎないで」というShrink特番のタイトル、そして中村倫也の強い軸を持つ柔軟さが、彼女の生真面目さを少しだけほぐしてくれればと願ってしまうのだ。

 土10での全3話は最終回を迎える。だが、これほど見事な演出とキャスティング、そしてまだ多くのことを語り続けている原作のことを考えれば、『Shrink』には第2章、セカンドシーズンがあってもいいのではないかと思うのだ。いつかその機会がもしあるとするなら、しなやかでタフに成長した弱井と雨宮、そして中村倫也と土屋太鳳に再会することを楽しみに待ちたいと思う。