演技だけではなく、インタビューや舞台挨拶においても強く観客を惹きつけるタイプの俳優がいる。中村倫也はたぶん、日本の俳優の中でも指折りに、そうした場での言葉の力を持っているタイプだ。
舞台あいさつで見せる、圧倒的なコミュニケーション能力
演説のように論じ、名言を吐く、というタイプとは少し違う。あくまで飄々と軽妙に、ある時はまるで司会者のように他の俳優に話を回し観客を和ませながら、作品や役者についてさりげなく重要な言葉を残していく。
公開初期の不振から一転して話題を呼び、異例のロングランを続けている映画『ハケンアニメ!』の舞台挨拶でも中村倫也は半ば冗談めかしながら、主演の吉岡里帆について「演技に対して執念を持っている、怨念のような執念」という言葉でその一面について語っていた。そしてそれは単なる無内容な「女優いじり」ではなく、吉岡里帆という誤解されがちな役者が抱える、隠された本質を的確に批評する言葉になっていた。
コミュニケーションが上手い。まるで混雑したパーティー会場をすり抜けてカクテルを運ぶように、衝突を避けながら人の間合いに踏み込むことができる。舞台挨拶やインタビューでの中村倫也を見ていて、いつもそう思う。不意をつくように吉岡里帆の役者としての執念に触れ、本人がそれを笑っていなすとスッと引く、そうした繊細で柔軟な人と人の距離に対する直感のようなものは、中村倫也が作品の中で見せる変幻自在な演技にもどこか通じている。
映画『ハケンアニメ!』のポスターは赤と青、中村倫也と吉岡里帆の対決構図で作られているが、実は作品のクレジットとしては吉岡里帆の単独主演である。映画の内容も、メインでカメラが追うのは吉岡里帆が演じる新人アニメ監督・斎藤瞳の苦闘であり、中村倫也が演じる王子千晴は挑戦を受けて立つディフェンディングチャンピオンの立場だ。
だが、映画の中で王子千晴というキャラクターが放つ存在感は強烈である。天才肌で傲慢、場合によっては子どもアニメでキャラクターを殺すことも厭わず、名前通りの専制君主のように振る舞いながら、陰で苦しみ、不安に怯える弱さを隠している。
映画に厚みを加え、観客、そして多くのクリエイターを惹きつけるロングランとなったのは、吉岡里帆のひたむきさと対をなすような、王子千晴の二面性を表現する中村倫也の演技の素晴らしさがあったからだと思う。