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張り詰めた空気から一転、リラックスした雰囲気に

 終局後、対局室に入ると、まだ張り詰めた空気が流れていた。感想戦は緊張感が残ったまま始まる。だが、7年以上も研究会でお互いを高め合い、気心がしれた2人だ。少しずつ弛緩していき、表情が緩む。永瀬が笑みを浮かべ、藤井が駒をクルクルと回すようになる。心を整理し、折り畳んでいく。見ていてなんだかホッとする。

感想戦で笑みを浮かべる永瀬九段

 検討していく中で、83手目に永瀬の打った香が取られる変化が出てきた。香を2八ではなく2六に打つ手をAIが推奨しており……という話になった。「香車は下段に打て」がセオリーなだけに、藤井が「違和感があるような」と言えば、永瀬も「へえー2六なんですかあ」と言って何度も香を2六に打ち付けた。下段の香車がまずかったと言われてもだよねえ。

 さて立会人の青野には、まだ大事な仕事が残っている。「ほどよいところで感想戦をお開きにする」という役目が。対局終了からちょうど1時間後、青野が「もうそろそろ」と声をかけ、両者が深々とおじぎをして第1局を終えた。

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第1局は藤井王座の勝利となった

「公式戦の対局と公務以外はすべて研究会」という凄まじさ

 打ち上げにもご相伴させていただいた。ちょうど永瀬の向かいに座ったので、いろいろと話を聞くことができた。食事の席なので、まずは気楽に昼食はどうだったかと聞くと、2人ともボリュームたっぷりの陣屋カレーをほとんど平らげたとのこと。「あの伊勢海老の揚げたものが美味しいんですよ」と永瀬。「今日は久々に食べすぎました」と言う。

「これまでは、ぶどう1房とか、いちご1パックを1回で食べていたんですけど控えるようにして、2ヶ月前から朝ご飯を抜いて1日2食にしているんですよ」

 2ヶ月前とは、ちょうど王座戦で鈴木に勝って挑戦者決定戦に進出した後だ。

「5キロほど痩せて標準体重になりました」

ボリュームたっぷりの「陣屋カレー」.

 今は月に何日研究会をやっているのかと聞くと、永瀬は平然とした顔で答えた。

「2024年に入ってからは公式戦の対局と公務以外はすべて研究会を入れています。はい、明日もです」

 ええっ? 毎日のように朝から研究会をやっていて脳がガス欠にならない?

「ええ、燃費が良くなったんでしょうか(笑)。1日1食にするのはやりすぎですかねえ(笑)」

 いやいや、「軍曹」という言葉すら生ぬるい。食事については無茶しないでほしいと心配になるほどだ。しかし藤井はニコニコしながら聞いている。そうか、彼にとってそういう永瀬は当たり前なんだろうな。